しかし、そんな「夢の対決」の実現に、無粋な西ドイツがまたも立ちはだかった。ともに中3日の戦い。西ドイツが北部のモンテレイから移動してきたのに対し、フランスは準々決勝からグアダラハラにとどまっての試合になった。しかし、それ以上に大きかったのは、準々決勝までの激闘の疲れだった。
フランスは前回王者のイタリアを破った後、優勝候補のブラジルとW杯の歴史に残る名勝負を展開。1-1のままPK戦決着に持ち込まれたとはいえ、最後まで互いに攻め合い、攻撃サッカー同士による、美しく激しい120分間だった。現場で取材していた筆者は、あまりの濃密な戦いに集中しすぎたせいか、試合後はぐったりしてなかなか原稿を書きだすことができなかった。
フランスにとって、「ヘビー級」の相手に目いっぱいの戦いを演じた代償はやはり大きかった。最大のヤマとみられたブラジル戦を切り抜けたことで、精神的にも切り替えが難しかっただろう。本来なら、さらに意気が上がるところだが、ベテランの多いチームとあって、体力の消耗の方が大きかったかもしれない。対する西ドイツも苦しい戦いの連続だったとはいえ、相手はモロッコとメキシコ。過去の実績から言えば、平幕の上位から中位といったところだ。軽めの相手をさばき、本命の一角ブラジルを片付けてくれたフランスと対峙する。準決勝へ、より集中できる状況だったのではないか。
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