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だからサッカー・ドイツ代表が嫌いだった~最強チームへの敬意を込めて

残した汚点

 相手の命すら奪いかねなかった犯罪に近いラフプレーも駆使して進出した決勝で、西ドイツはイタリアに完敗する。3点を奪われた終盤、パウル・ブライトナー主将のシュートでW杯決勝初の完封負けを逃れるのがやっと。その試合終了直後、テレビ解説を務めていた岡野俊一郎さんの一言が非常に印象に残っている。「ドイツ、がっくりきていますが、私に言わせればよくここ(決勝)まで出てきましたよ…」。要は、プロの目から冷静に見て、西ドイツには決勝を争うほどのクオリティーがなかったということである。

 80年の欧州選手権制覇に大きく貢献した華麗なゲームメーカー、ベルント・シュスターが参加を辞退し、ルンメニゲは故障を抱えて万全でない。ドイツを支えていたのは技術や戦術以上に、無骨な強さやスタミナ、勝負を諦めない気力といった要素だった。

 優勝したイタリアは伝統の守備を重視したスタイルながら、速攻には抜群の切れ味を持ち、6点を挙げたパオロ・ロッシ、40歳で好守を連発した主将のGKディノ・ゾフというダブル主演から、守備ラインを締めたガエタノ・シレア、優雅さを持つMFジャンカルロ・アントニオーニ、右サイドでテクニックを生かしたブルーノ・コンティらの助演陣、ちょい役まで、個性あふれる多彩な役者たち、仕事師をそろえた実にユニークなチームだった。何より、前回覇者アルゼンチン、本命ブラジル、勢いのあったポーランド、そして西ドイツを連破しての頂点は、堂々の勝ちっぷり。「夢のサッカー」と言われたブラジル、「シャンパンスタイル」と評されたフランスは、ともに楽しい攻撃サッカーで多くのファンを魅了した。

 もし決勝がイタリア-フランスなら、最後にもっとレベルの高い戦いを見ることができたのではないか。プラティニ、ティガナ、ジレスを決勝の舞台でも見たかった。筆者は西ドイツの「八百長」、犯罪まがいの「ラフプレー」を心底恨んでいた。極東でテレビ観戦したファンが強くそう思っていたのだから、フランスやアルジェリアの国民感情は推して知るべし。この大会は筆者の中から、ドイツのサッカーに抱いていた好感や敬意を、一気に消し去った。それほど大きな汚点を、この大会の西ドイツは残したといえる。

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