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だからサッカー・ドイツ代表が嫌いだった~最強チームへの敬意を込めて

シューマッハーのラフプレー

 ただ、本来ならフランスが後半に勝負を決めていても不思議ではない一戦でもあった。後半13分、プラティニのスルーパスでDFパトリック・バティストンが抜け出し、GKと1対1に。しかし、西ドイツのハラルト・シューマッハーがゴールを飛び出し、相手もボールも見ずに体当たりをかました。迫り来るシューマッハーの勢いに恐怖を感じたためか、バティストンのシュートはゴールの右へ。驚いたことに主審は反則を取らず、試合はドイツのゴールキックで再開された。

 バティストンは30分間、意識不明に。歯を3本折り、脊椎を損傷。駆け寄ったプラティニは「最初は脈もなかったので、死んでしまうかと思った」と振り返る。一時危険な状態と伝えられたバティストンは何とか回復し、84年の欧州選手権制覇に貢献し、86年W杯にも出場する。

 現在の基準ならシューマッハーは一発レッドで退場。西ドイツはフィールドプレーヤー1人を放棄して新たなGKを投入し、10人で防戦一方の戦いを強いられたはずだ。第2GKならPK戦のドラマが再現されたかどうかは疑問だし、そもそもルンメニゲを投入するような攻撃的な選手交代はもはや不可能だっただろう。

 激戦の末に決勝進出を阻まれたこともあり、フランス国民は怒った、怒った。「最も憎むべきドイツ人」の名前を問うたフランスの世論調査で、シューマッハーはアドルフ・ヒトラーを抑えて1位となった。この一件でフランス国民のドイツへの悪感情が膨らんだ結果、独シュミット首相が仏ミッテラン大統領に謝罪の電報を送り、両者が国民に向けて声明を出して事態の収拾に動くほどのトラブルに発展した。

 ドイツに留学していた松本育夫さんは、この試合の解説でフィッシャーの同点オーバーヘッドシュートを「いつも練習しているんですよ」と絶賛。一方でシューマッハーのラフプレーには、明確な批判はなかった。実況の羽佐間正雄アナウンサーはフランスの敗退に「ああ無情!」。熱戦の現場に実況担当として立ち会い、胸に去来した思いを、そのまま表現した。

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