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だからサッカー・ドイツ代表が嫌いだった~最強チームへの敬意を込めて

リネカーの言葉

 1990年のサッカー・ワールドカップ準決勝で西ドイツにPK戦の末に屈して決勝進出を逃した直後、イングランドの名FWゲーリー・リネカーはこんな言葉を残した。「サッカーというのは明解な競技だ。22人の男たちが、90分間ボールを追いかけ回す。そして、最後にはいつも、ドイツが勝つ」

 サッカーの母国とされるイングランドにとって、W杯での4強入りはこの時がわずか2度目。久々の決勝進出を惜しくも逸し、その一言には一層の悔しさがこもっていた。と同時に、「チェ、またドイツかよ」という舌打ちに似た感情がリネカーの胸に充満していただろうと想像する。

 筆者はリネカーと同世代。小学生のころから、もう50年近くサッカーをかなり真剣に見てきた。この間、何度「チェ、またドイツかよ」と思ったことだろうか。筆者には競技者としてドイツ代表と対峙した経験などあるはずもないが、サッカーをこよなく愛するオールドファンとして、サッカーにエンターテインメントの要素を求める視点からすれば、ドイツ代表には「数々の楽しみを奪われた」大きな貸しがあると思っている。

 筆者にとって、W杯などを観戦する際、基本的な優先順位が存在する。一つ目は応援しているチーム、好きなチーム、良質なサッカーを実践しているチームの勝利、活躍。そして二つ目はドイツ代表の敗戦、敗退である。ドイツ代表に対しては、長い年月を経てそれほど深い恨みのような感情が心の中に堆積してきた。一時は、大事な試合にドイツが勝つと、怒りと不満で体が震え出すほどだった。

 だから、リネカーの気持ちは本当によく分かるつもりだ。ここで大選手だった彼を引き合いに出すのは大変おこがましいが、同年代の彼とは同じようなサッカーシーンを数多く目撃してきたであろう。英国育ちの彼も、幼少期からドイツの戦いの前にある種の怒りを募らせてきたはずで、90年W杯で発した言葉の裏にある思いは、準決勝の敗戦による悔しさだけではなかったと解釈している。

 サッカーにおける強豪といえば、まずはブラジルである。W杯でも最多の優勝回数を誇ってきた。では、なぜリネカーが「最後はいつも、ドイツが勝つ」と言ったのか。そこにはドイツの強さをたたえるよりも、「確かに、あんたらは強いよ」「たまには空気を読めよ」といった皮肉交じりの響きが強いと感じる。

 この特集では、筆者がなぜ、ドイツ代表をそれほど嫌いになるに至ったかを説明する一方で、今や名実ともに「世界最強」になったと言えるドイツ代表の輝かしい歴史、ライバル国との激闘を振り返ってみたい。

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