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戦闘50日間の爪痕~パレスチナ自治区ガザ~

戦闘終結に沸く人々

 エジプト政府は8月26日夜、イスラエルとハマスとが停戦で合意したと発表した。戦闘開始から50日目のことだった。

 翌朝、約20日ぶりにガザに入ると、大きな荷物を抱えて自宅に戻る人々や、がれきを運ぶトラックが激しく往来していた。町並みが以前にも増して破壊されていたが、それでも人々の表情は明るく、戦闘が終わった喜びで満ちていた。

 「生き残ったわ」。再会した一人の女性は会うなり私を大きく抱擁した。以前、「戦いが起きるたびに自分の周囲の誰かが犠牲になるから、いつも次は自分の番だと思う」と心情を吐露した彼女に、どういう言葉をかけるべきか答えに窮したことがあった。生き残ってくれたことがただありがたかった。

 ガザ市東方のシェジャイヤ地区を再び訪れた。見渡す限りがれきの山。家の残骸に持ち主の名前や電話番号などが書かれている。ここでも少しずつ住民が戻り始めていたが、住めるような状態ではない。がれきの山をよじ登って使えるものがないか探すところからスタートだ。道ばたでテントを張っている家族も見かけた。

 夕刻、ハマスの「戦勝」記念大会がガザ市内であると聞き、駆け付けた。会場はハマスの緑の旗を振る支持者であふれ、独特の熱気に包まれていた。スピーカーから大音量で流れるハマスのテーマソングを誰もが口ずさみ、体を揺らす。

 ハマスのガザ地区最高幹部ハニヤ氏が姿を現すと、人々の興奮は頂点に達した。壇上には、ハマスの軍事部門カッサム隊の戦闘員が銃を掲げて整列。空にはハマスお手製の無人機が飛んでいる。カッサム隊の格好をまねた小さな子供たちも一緒になってお祭り騒ぎだ。

 たまたま横に居合わせた20歳前後とみられる女性から「私本当に幸せ。あなたも幸せじゃない?」と話しかけられた。停戦合意の内容や犠牲者の数を考えると「勝利」とは言えないのではないかと、のど元まで言葉がこみ上げてきたが、満面の笑みを浮かべるその女性の顔を見て言えなくなった。1カ月後、1年後、その幸せが確かなものになっていることを願った。

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