スペイン・バルセロナで今も建設工事が続くサグラダ・ファミリア教会をはじめ、おとぎの国のようなグエル公園、波打つ曲線が異彩を放つカサ・ミラなどで知られる建築家アントニオ・ガウディ。彼は模型とスケッチを基に現場の職人と作品に取り組んだため、設計図面をあまり描かなかったというが、ガウディ建築を40年にわたって実測して図面を起こし、そこに込められた思想を読み解いてきた建築家がいる。(文化特信部・中村正子)
バルセロナ在住の田中裕也さん(66)は、小学生の頃から建築家を志し、大学時代に初めてサグラダ・ファミリア教会を訪れた。装飾だらけの「誕生の門」を見て、「とてもかなわない。これが建築というものなら建築家の夢を絶とうと思った」という。大学卒業後、建築事務所に勤めたが、ガウディへの思いは募るばかり。スペイン語もできず、仕事のあてもないまま、1978年に思い切ってバルセロナに渡った。
ガウディを研究するといっても、どこから始めればいいのか分からず、毎日グエル公園の階段に腰掛けて思案する日々。3カ月後、「今座っているこの階段を測ることならできる」と思い立つ。日本から持って行った巻き尺で蹴上(けあげ、1段の高さ)、踏面(ふみづら、足を乗せる上面の奥行き)、縦横の線と、実測とスケッチを重ねた。「やっていくと広がりが出てきて、それが40年続いた」
カサ・バトリョ、カサ・ミラの実測と作図を手掛けた後、サグラダ・ファミリア教会に着手。グエル公園と同じように、階段を一つひとつ測って部分を描き、それらをつなげて全体図を完成させた。「実測して整理していくと、周りとの関係が見えてくる。少しずつ周りのものを取り込んでいくと全体像が見えてくる。完成予想なんて全然頭にない。予想していたらギブアップしていたと思います」。実測には棒や指も使ったという。
◆田中裕也(たなか・ひろや) 1952年9月30日生まれ。北海道稚内市出身。国士舘大工学部建築学科卒。著書に「ガウディの独り言」「実測図で読むガウディの建築」「ガウディ・コード」など。
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