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  サイバー戦争の幻想と現実=攻撃優位の実態
 「外交」~Diplomacy~

サイバーディフェンス研究所理事 上級分析官 名和 利男

サイバーディフェンス研究所理事 上級分析官 名和利男(なわ・としお)航空自衛隊において、防空指揮システム等のセキュリティー担当業務に従事した後、JPCERT/CC早期警戒グループのリーダーを経て、サイバーディフェンス研究所に参加。現在、サイバー攻撃対処支援、サイバー演習、サイバーインテリジェンス活動等に専念【時事通信社】

 「サイバー空間」という概念に対して、自分には関係なく、小難しいものであると捉えてしまう人が多くいる。その理由を尋ねると、現実社会の出来事とは異なり、「サイバー空間は実態として感じ取ることができない」という旨の回答が大半を占める。

 しかし、サイバー空間とは、インターネットや電子機器の積極的な利活用の結果、不特定多数あるいは特定の相手に自由に情報を伝えたり、情報を得ることができるようになった領域を示す概念である。この意味で、読者の多くの方々は、このような領域の恩恵にあずかっているはずである。

 ここ数年、サイバー空間自体は劇的に変化しており、かつ、その利用も広範囲に拡大している。具体的に言及すると枚挙にいとまがないが、利用者個人で容易に理解していただけるところでは、インターネットにつながることが前提となっているスマートフォン等のモバイル端末の急激な普及、CMやポスターにおける「詳しくはウェブで」といった手法に見られるインターネットを通じた情報配信の強化、「ショールーミング」と言われる小売店で確認した商品をインターネット通販でより安く購入する行動の促進が挙げられる。

 ビジネス分野では、コンビニエンスストアやレストランのPOSレジ、企業間の商取引におけるEDIシステム、エネルギー(電気、ガス、水道)や交通(道路、鉄道、航空、海上)における制御システムなどが、インターネットと同じ情報通信技術を積極的に採用し始めている。

 特に、流通管理する主体や国家を持たないインターネット上でのみ流通する「ビットコイン」と言われる電子マネーが一部で実用化されている。

 このようにサイバー空間の急激な利用拡大が進む中で、利用者の多くは、第三者による悪意のある行為を許す「隙間」が想像以上に増加していることに気付いていない。実際に、昨年(2013年)は、この「隙間」に気付くことができなかったために、幾つかの大手企業から数百万件から数千万件の顧客に関するデータが流出する攻撃が発生した。また、インターネットバンキングでは、2013年だけで、約14億円を超える不正送金による被害が発生し、この執筆時点でも、その被害の急増に歯止めが掛かっていない。その他にも、公表されていないネガティブな事実は山のようにある。

 現在のサイバー空間は、異常なほど脆弱なものでありながら、ほとんどの利用者はそれを実感として分かっていない。攻撃側の観点で言い換えると、サイバー空間を利用して相手に攻撃を仕掛けることは非常にたやすい状況となっており、その費用対効果は増加し続けている。

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