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サイバー攻撃の実験場、ウクライナで暗躍する親ロシア工作集団「UNC1151」
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山田敏弘

 2014年のクリミア併合でハイブリッド戦を展開したロシアは、今回のウクライナ危機下でも情報戦やスパイ工作を仕掛けている。親ロシアの情報工作を行っていると見られるのが「UNC1151」という謎のグループだ。

ウクライナ政府機関にサイバー攻撃

 2022年1月14日、ウクライナの政府機関のウェブサイトにこんなメッセージが表示された。

「最悪の事態に怯えておけ」

 その前日から、ウクライナ政府の約70の機関がサイバー攻撃を受けた。そして公式サイトは内容が改竄されてしまい、そこにハッカーが上記のメッセージを表示させたのである。

 ハッカー集団が誰の指示でサイバー攻撃を行ったのか、100%の確証はまだないが、ロシア側からの攻撃である可能性が高いと見られている。ただウクライナ政府機関である戦略通信情報セキュリティセンターは、「この攻撃は、ウクライナとNATO(北大西洋条約機構)の未来についてのロシア側との交渉が決裂したことと関係がある」と声明を発表した。

 それに呼応して、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長も、サイバー防衛においてウクライナとの連携を強化すると発言。ロシアを見据えて、マルウェア(ウィルスなどの不正プログラム)に関する情報共有も進める合意に署名すると述べている。皮肉なことに、ロシアからと見られるサイバー攻撃が、ウクライナとNATOをさらに近づける結果になっている。

 2021年後半にウクライナ問題で緊張感が高まったのは、アントニー・ブリンケン米国務長官をはじめとするアメリカやNATO高官らが、ロシア軍のウクライナ国境での動きへの牽制を始めたからだ。

 そして2021年12月3日には、米ワシントン・ポスト紙が衛星写真などを含む米情報機関の報告書について報じた。その報告書では、ロシアがウクライナ国境で軍を増強しており、早ければ2022年1月にはウクライナに侵攻する可能性があると予測されていた。

 そこから世界中にこのニュースが駆け巡り、以降、いつ侵攻が起きてもおかしくないとの懸念が広がった。

 言うまでもないが、一連の動きの裏で、米露ともどもスパイ工作やサイバー工作を激化させている。冒頭のケースなどもその戦略の一環だと考えていい。そこで、現在のウクライナ情勢に絡んで続けられている工作の実態に迫ってみたい。

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