米イラン「軍事衝突」苦悩する「EU」ほくそ笑む「プーチン」
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イランを最大の敵と見なすイスラエル

 イランは、すでにイスラエルの北隣のレバノンに事実上の拠点を築いている。レバノンのヒズボラはイスラエルを敵視しているため、コッズ旅団はシリア経由でミサイルなど武器の供与を続けてきた。

 一説によると、ヒズボラは約13万発のミサイルを保有しており、イスラエルの主要都市にすでに射程を合わせているという。ヒズボラのミサイルは、イスラエルの安全保障にとって最大の脅威の1つだ。

 2006年7月にイスラエルがレバノンに一時侵攻した理由も、同国南部のヒズボラの拠点を破壊し、ミサイル攻撃の危険を減らすためだった。

 つまりイスラエルは、シリアが「第2のレバノン」となり、周辺国にイランの前進拠点が増えることに強い警戒感を抱いている。

 「ハイファ大学国家安全保障研究センター」のダン・シュフタン所長は、2017年当時、私とのインタビューの中で、

 「イランはイスラエルにとって最大の脅威だ。次の戦争では、イスラエルに多数のミサイルが撃ち込まれて多くの死者が出る可能性もある」と懸念を示した一方で、

 「イラン人は賢い人々だ。彼らは、イスラエルに総攻撃をかけた場合、自分の国も滅ぼされることを知っている。だからイランに対しては抑止力をきかせることができる」と語り、イスラエルがイランに攻撃された場合、徹底的に反撃するという見方を打ち出した。

 そう考えると、ソレイマニ少将の死後、イランによる攻撃について最も不安を強めているのはサウジアラビアと湾岸諸国かもしれない。

マクロンが援助を求めたのは…
 もう1つ興味深いのは、エマニュエル・マクロン仏大統領の動きだ。彼はソレイマニ少将が殺害された直後、プーチン大統領と直ちに電話で協議した。EUが独自に火を消すのは難しいので、ロシアの最高指導者に援助を仰いだわけだ。

 プーチン大統領は、中東で影響力を増すことを狙っている。イラン、シリア、トルコさらにイスラエルとも太いパイプを持っているからこそ、今回の危機を利用して中東での橋頭堡を拡大しようと試みるに違いない。

 ロシア外務省は、ソレイマニ暗殺事件後に発表した声明の中で、

 「彼は極めて優秀な軍事指導者であり、中東全域で尊敬を集めた。特にISとの戦いでは大きな功績を残した」と最大級の賛辞を送っている。これについてドイツのメディアは、

 「2015年にロシア軍がアサド大統領に反抗する勢力に対して、シリアで本格的な軍事攻撃を始めたのは、ソレイマニ少将がこの年にプーチン大統領を訪問して、シリア内戦に介入するように説得したからだ」という見方を報じている。ソレイマニ少将は、ロシアの中東での影響拡大についても、重要な役割を果たしたというのだ。

 ドイツのメルケル首相とマース外相も、1月11日にモスクワでプーチン大統領とイラン危機について協議する予定だ。

 地政学的な思考が苦手な元ビジネスマンの大統領(トランプ)が中東に残す空白を埋めるのは、地政学的な思考に長けた元秘密警察の大統領(プーチン)かもしれない。(2020年1月)

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