米イラン「軍事衝突」苦悩する「EU」ほくそ笑む「プーチン」
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核合意は事実上の終焉

 今回の事件について、EUの外交担当者の間では失望感が強い。中東の台風の目の1つであるイランで穏健派の立場を強め、欧米との関係を緊密にするチャンスが、ソレイマニ殺害によって少なくとも中期的に失われたからだ。今後は米国との対決を重視するタカ派の時代となる。

 日本に比べると、欧州は中東との経済的、政治的な関係が密接であり、この地域での混乱の影響を直接受ける。地理的にも近い。私が住むドイツからイスラエルのテルアビブまでは、飛行機を使えばわずか3時間半で到着する。

 2015年にはシリア内戦の影響で100万人を超える難民が欧州に押し寄せ、ドイツなど各国で右派ポピュリスト勢力の拡大につながった。

 このためEUの外交担当者にとって中東の安定化と緊張緩和は、最も重要な政策目標の1つだ。

 たとえば2015年に独仏英が、米国のオバマ政権、ロシア、中国とともにイランとの核合意に調印し、少なくとも同国の核開発を遅らせるための一歩を踏み出したことは、欧州にとっては大きな成果だった。

 しかし、その成果は長続きしなかった。

 2018年にトランプ政権は核合意からの離脱を宣言するとともに、イランに対する経済制裁を強化した。独仏英は核合意の維持をめざしたが、イランはウラン濃縮を再開した。

 去年6月にはホルムズ海峡上空でイランが米国のドローンを撃墜し、両国間の緊張は日増しに高まっていった。欧州では、米国によるソレイマニ殺害で核合意も事実上終焉を迎えたという意見が有力だ。

 EUが最も恐れているのは、今回の事件でイラン国内のタカ派が勢いづいて核兵器の開発に拍車をかけることだ。イランと敵対関係にあるサウジアラビアを始め、エジプトやトルコも核兵器の開発に着手し、中東で核軍拡競争が始まる可能性がある。中東での核拡散は、テロリストが核物質を入手する危険も高める。欧州の目と鼻の先の中東での核軍拡競争は、EUにとって想定しうる最悪の事態の1つだ。

 現在のところ中東で核兵器を保有している国はイスラエルだけだ。同国政府は核兵器の保有を肯定も否定もしない。だが、軍事関係者の間では、同国が核兵器を持っていることは周知の事実である。

 同国のベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「イランの核保有は絶対に許さない」と発言している。敵国に核兵器などの大量破壊兵器の保有を許さないというのは、歴代の政権が貫いてきた政策だ。つまりイランが核開発への道を本格的に歩み出した場合、イスラエルが過去にイラクやシリアで建設されていた原子炉を爆撃して核開発を未然に防いだように、イランに対しても「予防的攻撃」を実施する可能性が高まる。

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