インド・モディ政権による衝撃的な「高額紙幣廃止」措置から2カ月、商売や市民生活の混乱もようやく収束に向かい始めている。しかし、市中の紙幣流通量の86%、20兆ルピー(約32兆円)ものキャッシュを無効化しただけに、現金取引の多い小売りや消費財関連産業、2輪車販売、そして農村部などでは一時的とはいえ大幅な需要減に見舞われている。
これだけのダメージを承知の上で実施した高額紙幣廃止の狙いは、名目GDPの25%を占めるとされるブラックマネーの捕捉・締め出しや偽札対策、と言われているが、その先には不透明かつ非効率で脱税や不正蓄財を生みやすいインドの「現金依存経済」をデジタル経済、キャッシュレス経済へと一気に移行させるという途方もない狙いが見えてきた。
「デジタル優遇」続々
政府は昨年12月上旬、まず国営保険会社の保険料について、オンライン支払いの場合8~10%割り引く措置を発表。同月下旬には一般企業の給与支払いのキャッシュレス化を閣議承認した。ニティン・ガドカリ道路交通相は地元経済紙に対し、「近く高速道路の料金徴収を100%電子化する」と表明した。
国営石油会社のガソリンスタンドでは12月中旬から、クレジットカードやデビットカードでの支払いに対してガソリンや軽油代の0.75%割引を開始、1月からは割引を家庭用LPGにも拡大した。また、国鉄の乗車券でも同様に1月から1%の割引を適用した。2月上旬にも発表する2017年度(2018年3月期)予算案では、電子支払いによる所得税の割引措置が盛り込まれる見通し。あの手この手で市民の支払いをデジタル・キャッシュレスに誘導している。
デリー市政府も、2017年1月から運転免許や自動車の車検証発行手数料などに電子決済の導入を決めるなど、こうしたデジタル支払い優遇の動きは各州政府にも広がっている。
国営テレビ『ドゥールダルジャン』は12月上旬、デジタル支払いに関する「啓蒙チャンネル」を創設。国を挙げてデジタル・キャッシュレス経済を後押ししている。
計画委員会を改組して創設したインド変革国家機関委員会(NITI アーヨグ)のCEOで、商工省次官などを歴任したキャリア官僚のアミターブ・カントは昨年末、「インドには10億人を超える携帯電話ユーザーがいて、10億枚を超えるアーダール・カード(いわゆるマイナンバー・カード)が発行済みだ」と指摘。モディ首相肝いりの「ジャン・ダン・ヨジャナ(国民金銭計画)」でこれまでに農民や貧困層など2.6億人が新たに銀行口座を開設したことなどを挙げ、「今こそキャッシュレス経済に移行する時だ」と呼び掛けた。
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