中国人民銀行(中央銀行)の前で押し車を押す男性=2015年7月9日、北京【EPA=時事】
新田賢吾
今年7~9月期の中国の実質国内総生産(GDP)伸び率は6.9%と、政府目標の7%をついに割り込んだ。それ自体は驚きでもなく、数字も実態とはかけ離れたフィクションであるためほとんど意味を持たない。だが、習近平政権が来年からの第13次5カ年計画で成長目標を6.5%に切り下げる検討を始めるなど、中国経済の下降に打つ手がなく、現状を追認せざるを得なくなっていることに注目すべきだろう。背景にあるのは、金融緩和、財政出動、人民元操作が何の効果も発揮しない「三重苦」である。
「元の道」も手詰まり
10月24日、中国人民銀行(中央銀行)は、今年5回目となる基準金利の切り下げと同時に、預金準備率の引き下げにも踏み切った。景気悪化への処方箋として当たり前の対応だが、もはや人民銀行自身も効果に懐疑的なのは、中国メディアの低調な報道ぶりにも表れている。金融緩和を続けながらも企業の設備投資が活発化しないのは、すでに多くの製造業で設備が過剰で、新規投資が自殺行為であるのが誰の目にも明らかだからだ。バブル崩壊後の日本では、ゼロ金利など金融緩和を進めても企業の投資意欲が刺激されない状況に陥ったが、今の中国もほとんど同じ状況だ。結果的に政府主導のインフラ建設など財政出動という「元の道」に戻らざるを得なくなっているが、それも今、手詰まりだ。
「地方政府は、省レベルはもちろん市や県レベルまで新規プロジェクトへの拒否反応が強い」。中国の政府系シンクタンクの研究員はこう指摘する。プロジェクトを拒否するのは、1つには、習政権が進める「反腐敗闘争」があまりに厳格なため、汚職疑惑を持たれかねない事業には関与したくない、という官僚の防衛本能のためだが、最近では別の要因もある。プロジェクトの責任制が強化され、計画、実行したプロジェクトの投資効果、使用した資金の返済状況などが検証され、後々の業務評定につながってくるからだ。建設期間中に地域のGDPが押し上げられ、自分の評価さえ上がれば、完成後、投資リターンが少なく、事業として破綻しても、そのころには自分は転勤しているという無責任が許されなくなった。
中央政府が景気底上げのためのプロジェクトを認可しても、地方政府は慎重になり、なかなか手をつけない――。かつてとは正反対のことが、現場では起きているのだ。今年5月以降、習政権は大規模な鉄道建設プロジェクトを再開し、次々と認可を降ろしたが、工事は遅々として進んでいないという。
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