「イラクとシャームのイスラーム国家(ISIS)」はイラク国家を崩壊させるか
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イラク中部サラハディン州の軍施設を奪ったイスラム過激派「イラクとシャームのイスラーム国家(ISIS)」のメンバー。イスラム過激派のウェブサイトで公開された。=2014年6月14日【AFP=時事】

池内恵
東京大学先端科学技術研究センター准教授

 6月10日にイラク北部モースルを、イスラーム主義過激派集団の「イラクとシャームのイスラーム国家(ISIS)」が掌握した。ISISの勢いは収まらず、南下して、バイジーやティクリートといったイラク中部の主要都市を制圧し、首都バグダードに迫ろうという勢いである。

 2003年のイラク戦争以後、テロが止まず不安定と混乱でぐずつくイラク情勢だが、ISISの伸長が、全体構図に玉突き状に変更を迫り、周辺諸国や地域大国を巻き込んだ内戦に発展する危険性がある。

「国際テロ組織」の範囲を超えた武装民兵組織

 ISISは「アル・カーイダ系の国際テロ組織」と通常形容されるが、現在の活動はそのような形容の範囲を超えている。昨年3月にはシリア北部の主要都市ラッカを制圧し、今年1月にはイラク西部アンバール県のファッルージャを掌握、県都ラマーディーの多くも支配下に置いていた。

 確かに組織の発端はイラク戦争でフセイン政権が倒れたのちの米駐留軍に対抗する武装勢力の一つとして現れた「イラクのアル・カーイダ」だった。しかしシリア内戦への介入をめぐって、ビン・ラーディンやその後継者をもって任ずるアイマン・ザワーヒリーの「アル・カーイダ中枢」とは対立し、袂を分かっている。

 自爆テロを多用する手法には共通している面があるが、それは手段の一部であり、領域支配といったより大きな政治的野心を持つに至っているようである。イラク北部・西部や、シリア東部での活動ではテロを実行するだけでなく、内戦・紛争の混乱状況の中とはいえ、局地的に実効支配を試みている。所在を隠したテロ集団ではなく、政治勢力の一角に場所を確保する存在となりつつある。

 ISISは組織としてのアル・カーイダの中枢とは、継続性や協力関係を薄れさせているが、思想としてのアル・カーイダという意味では、「正統」な発展形態といえる。

 アル・カーイダの理論家アブー・ムスアブ・アッ=スーリーは、単発のテロで国際社会を恐怖に陥れる広報・宣伝戦を行うだけでなく、アラブ諸国やイスラーム諸国の混乱が生じればより大規模に組織化・武装化して領域支配を行う聖域(これをスーリーは「開放された戦線」と呼んだ【関連記事】)を作ることを提唱していた。長引くイラクの混乱と、2011年以降の「アラブの春」は、潜在的な聖域を各地に誕生させた。ISISがイラク西部と北部の機会をつかみ、一定期間でも聖域を確立して見せれば、世界のイスラーム主義過激派の中で一気に威信を高めるだろう。

 また、今回のモースル占拠や各地の掌握は、ISISそのものが強大化したというよりは、イラク中央政府とマーリキー首相に対する不満・不信・敵意を募らせた各地の勢力が、ISISと呼応して膨れ上がった可能性がある。ISISがいかに戦闘能力が高いとは言っても、このような短期間でここまで組織を拡大し、版図を広げることは考えにくい。イラク中央政府への反発からISISの支配に期待する民意が急激な伸長の背後にあるのではないか。モースルをはじめ各地のイラク政府軍部隊が、司令官をはじめ平服に着替えて逃走しているところから、中央政府の求心力が軍の中でも効いていない可能性がある。

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