英科学誌ネイチャーに新万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の論文を発表した理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダー=2014年1月28日、神戸市中央区の理化学研究所発生・再生科学総合研究センター【時事通信社】
塩谷 喜雄
科学ジャーナリスト
英科学誌『Nature』に掲載された、理化学研究所の研究者らによるSTAP細胞に関する論文には、すぐわかる明白な研究不正がいくつも存在する。日本学術会議の「学術と社会常置委員会」は、平成17年に、研究不正=ミスコンダクトには「盗用(plagiarism)」「改ざん(falsification)」「ねつ造(fabrication)」の3種があると定義している。これに照らすと、今回のSTAP論文は、3種の不正をすべて完璧に備えており、研究不正の「三冠王」といってもいい。
ところが、3月14日の記者会見で、理研の幹部は「不正」という判断をそろって回避した。不正の有無を速やかに調べるはずの「研究論文の疑義に関する調査委員会」の石井俊輔委員長は、不正があったかどうかは今回の中間報告ではなく、最終報告で確定するとして、結論を先送りした。
会見に同席した野依良治理事長は、論文には重大な過誤があると述べ、川合真紀・研究担当理事は、科学者の常道を逸脱していると指摘し、竹市雅俊・発生・再生科学総合研究センター(CDB)長は、重大な倫理上の問題があるので著者らに論文撤回を勧めたと明かした。理研幹部は一様に、不正という表現を使うことなく、容疑は「真っ黒」だと盛んに「ほのめかした」のである。
これを、日本を代表する高等研究所らしい口頭を使った高等戦術というのだろうか。それにしては、論文の筆頭著者である若い女性研究者を「未熟」と決めつけるなど、個人への非難はかなり直截で、“高踏”とは言い難い。
研究不正と公式に認めれば、組織としての理研も責任を厳しく問われる。一方、功を焦った1人の若い研究者の前のめりの「暴走」というストーリーを、それとなく世間に広げれば、組織への責任追及は甘くなる。理研幹部の結論先送りと「ほのめかし」に、そんなイヤーな構図を見て取るのは、考え過ぎだろうか。
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