「やらせメール」事件で、事実上、再稼働が白紙に戻った九州電力玄海原子力発電所=2011年5月24日、佐賀県東松浦郡玄海町【時事通信社】
6月13日、経産省所管の日本エネルギー経済研究所が、停止中の国内原発がこのまま再稼働せず、稼働中の19基も順次停止した場合、その分を火力で賄うと、2012年度は1家庭当たりの電力料金が毎月1049円増えるという試算を発表した。電力需要がピークを迎える夏を前に、停止中の原発の再稼働が議論になり始めたタイミングで、あまりにもあからさまな再稼働応援歌であった。
政策選択において、自分たちに都合のいい試算や見通しを、傘下の研究機関に出させるのは、経産省のいつもの手口である。今回は、単なる世論誘導にとどまらず、原発を止めたら電気料金は上がり、一方で停電の危機も増大するという、2重の恫喝を含んでいた。
この発表を普通に受け止めれば、発電原価が安い原発が止まって、原価が高い火力で代替すれば、発電コストが上がって料金も上がるのは仕方ないと、納得してしまう。
しかし、電力会社もそれを監督する経産省も、発電所ごとの発電原価を一切公表していない。何度も情報開示を要求されているが、「企業秘密」だとして、かたくなに公開を拒んでいる。どこの原発がどれくらいのコストで発電しているかが分からないのに、それを火力で代替するといくら原価が上がるのかをはじき出せる道理がない。
だから、試算をいくら読んでも、なぜ標準家庭1世帯当たり月1049円上がるのか、論理的根拠が見つからない。書いてあるのは、原発の分を火力で賄うと、燃料費が新たに3.5兆円かかるので、その分を料金に上乗せすると、1kWh当たり3.7円、1世帯で月1049円増になるという計算である。
火力の燃料費増加分をそっくり料金に上乗せするというのは、全く論理性を欠いている。もしそれが正当なコストの反映なのだとしたら、原発というのはいくら動かしても一銭もかからない存在で、コストはゼロだということになってしまう。コストゼロというのは大抵の場合は「大ウソ」である。
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