【今月の映画】

園子温監督、ニコラス・ケイジ主演「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」

“ごった煮”のファンタスティックな世界観が魅力

 ハリウッドデビュー作ながら、園子温監督は臆することなく、存分に個性をさく裂させている。映画「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」は主演にアカデミー賞俳優のニコラス・ケイジを迎えた異色のアクション作品。文明批評も交え、独特の美意識で作り上げた世界が魅力を放つ。(時事通信編集委員 小菅昭彦)

 物語の舞台は独裁者ガバナー(ビル・モーズリー)が支配する「サムライタウン」、そして一度足を踏み込んだら抜け出せない「ゴーストランド」に分断された世界。ケイジ演じる主人公ヒーローはサムライタウンで銀行強盗を働き、投獄されていた。

 ガバナーはある日、お気に入りの女性バーニス(ソフィア・ブテラ)らに逃げられ、ヒーローに自由にすることとの条件として彼女を連れ戻すよう命じるが、捜索に与えた時間は5日間。タイムリミットを超えると爆発するボディースーツを着せられたヒーローは、彼女が消息を絶ったゴーストランドに向かう。

 映画を見る者にまず強いインパクトを与えるのは、緻密に作られたセットが醸し出す奇想天外な世界だ。サムライタウンは江戸時代の花街を基調にしつつ、西部劇を思わせる英字の看板や現代的なネオンもきらめくまか不思議な街。日米両国の過去と現在が混然一体となった空間に、侍やガンマン、遊女、かすりの着物を着た子供たちが集う。

 日本の時代劇と西部劇が併存する絵柄は、三船敏郎がチャールズ・ブロンソンやアラン・ドロンと共演した「レッド・サン」(1971年、テレンス・ヤング監督)をほうふつとさせるが、意外なほど違和感はない。サムライタウンのシーンは東映の太秦(うずまさ)撮影所で撮られ、さらに熟練のスタッフによって細部まで作り込まれたセットは実在感抜群だ。

 一方、ゴーストランドには「マッドマックス2」(1981年、ジョージ・ミラー監督)の舞台のような終末観が漂う。過去の核爆発の影響で動きを止めた巨大な時計を中心に、鉄骨や木材、崩れたコンクリートなどで作られたオープンセットが見事。サムライタウン同様、さまざまな人種が同居する図は、ボーダーレス化が進む現代社会を象徴しているかのようだ。

 サムライタウン、ゴーストランドのいずれも既視感はあるものの、それらが一つの作品に混在することでこの作品独自の魅力が生まれている。ある意味、統一感の全くない“ごった煮”のファンタスティックな世界観が今作の最大の魅力と言える。逆に言うと、その世界観について行けるか否かで作品への好き嫌いは分かれるかもしれない。

 しかし、今作で作り手が志向したのはリアルなアクション映画というより、大人のためのファンタジーであることは明らか。冒頭でヒーローと相棒のサイコ(ニック・カサヴェテス)が銀行強盗を働くシーンをあえて幻想的なタッチで撮影し、白日夢を思わせるシーンに仕上げたのも。そんな意思の表れに思える。

緩急自在な演出、“普段着”の撮影環境も「吉」に

 劇画チックとも言える世界でうごめく人物像も見る者を魅了する。ケイジはバーニス探索の旅を通して自分の過去の罪と向き合う主人公を好演。無頼だが愛嬌(あいきょう)もあるキャラクターは、1960年代に人気を呼んだイタリア製のマカロニ・ウエスタンの登場人物を思わせる。

 物語のキーパソンとなるバーニス役のブテラも魅力的。ダンサー出身で、「キングスマン」(2014年)の殺し屋役などで注目を浴びたが、今作でも短いシーンながら見事な殺陣を見せてくれる。

 ガバナー役のモーズリーがやや貫禄不足なのが惜しいが、サイコ役のカサヴェテスは核にも負けないゴジラを想起させる特異な役を存在感たっぷりに演じ、複雑な感情を秘めたガバナーの用心棒ヤスジロウ役のTAK∴(坂口拓)、ゴーストランドの住人を怪演した栗原類ら、日本人キャストも印象に残る。

 園監督の演出も快調だ。時にユーモアも交え、キレの良いアクションと詩情あふれる場面を緩急自在に織り交ぜて奇想天外な物語を一気に引っ張る。

 ストーリーは米国サイドが用意したものがベースだが、園監督が大きく改訂。ゴーストランドの荒廃の背景には核爆発があったという設定や、現代社会における貧困層と富裕層の二極化を投影したかのような二つの世界の描写は、原発事故を題材にした「希望の国」など、鋭い社会批評を交えた作品にも定評のある園監督ならではと言えるだろう。

 関係者によると、今作は当初、メキシコでのロケを予定していたが、諸事情から全編を日本国内で撮影することに。このため、スタッフも一部を除いて日本人。園監督はいつもとほぼ変わらない“普段着”の環境で演出に当たることができたようだ。

 過去、日本人の有名監督が海外でメガホンを取ったものの、日本とは勝手が違う環境下でその実力や個性を十分に発揮し切れなかった例は多い。今回の経験を踏まえ、園監督には次回、ぜひ海外に乗り込んでその手腕を発揮してほしい。

 「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」は公開中。

(2021年10月8日掲載)

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