◆コラム 夏場所に思う大相撲の「重心」と「概念」
 若林哲治の土俵百景

2023年05月31日19時00分

204センチ北青鵬の棒立ち

 照ノ富士はコロナ禍の最中に横綱になり、休場中に観客の声出し応援が解禁されたので、本場所の土俵入りで観客から「ヨイショ!」の声が掛かるのは、夏場所が初めてだった。観客にとってはこの掛け声も、相撲見物の楽しみだ。また一つ日常が戻った土俵で、横綱は一番ごとによく考えながら白星を重ね、おそらくぎりぎりの体調で責任を全うした。

 大関は貴景勝が辛うじてかど番を脱し、霧馬山が場所後に昇進を果たした。軽くなった番付という大相撲の「重心」を、何とか取り戻す流れに向かうだろうか。

 そんな夏場所の報道に、「相撲の概念」という言葉が飛び交った。きっかけは入幕2場所目の21歳、北青鵬の活躍である。身長204センチ。8日目には朝乃山を、10日目には明生を、土俵際へ追い詰められてから長い腕で投げて転がし、痛い黒星をつけた。

 普通なら下手が切れているか、そもそも上手に届かないような体勢からの逆転だった。

 さらに観客をどよめかせたのは4日目の竜電戦、6日目の琴恵光戦、11日目の若元春戦などで見せた棒立ちだ。相手に食い下がられたり押されたりしながら、膝も上体も伸ばして突っ立ったまま、まるで無抵抗に見えた。ところが、そこから反転攻勢に出る。若元春には土俵際でうっちゃりを食ったが、竜電は上手一本で振り回して投げ、琴恵光は抱え込んで寄り切っている。

 かつての逸ノ城みたいに「怪物」「規格外」と書き立てられ、「相撲の概念をぶっ壊しつつあるんじゃないですか。勝つためにやっていることが、自然とそうなる」と言い放った。

 相手が足の幅を狭めてそろえ、前傾姿勢も取らずに棒立ちになったら、簡単に崩せそうだ。それなのに複数の幕内力士がてこずる。これが北青鵬だけに可能なことなら、確かに「概念」が壊れるかもしれない。

バックナンバー

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ