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◆コラム 朝乃山の処分は重かったか
 若林哲治の土俵百景

2022年07月01日12時00分

無理筋だった「恩赦」

 名古屋場所の番付が発表された。三役や前頭上位に生きのいい力士やベテラン健在の玉鷲らがそろって楽しみだが、朝乃山の復帰も話題の一つになっている。

 朝乃山は昨年夏場所中、新型コロナウイルス感染症対応ガイドラインに違反したキャバクラ通いが発覚。6場所出場停止などの処分を受けて番付が下がり、今場所は西三段目22枚目からの土俵復帰となった。

 机上の計算では、最速で来年春場所に幕内へ戻るが、そう簡単にいくだろうか。大関再昇進となればもっと先になる。不祥事の前から勢いが停滞していたことを考えれば、今の幕内上位が相手ではなかなか大変だ。

 この間に「恩赦」を求める声も上がったが、私は決まった以上やむを得ないと思っていた。照ノ富士の独走で大関陣が頼りないから早く復帰させろというなら、話の筋が違う。そもそも照ノ富士に対しても、右四つの型に差があって5戦全敗と勝負になっていなかった。

 法を犯したわけでなし、法令違反より内部のルールを破った方が重い処分を受けるのはおかしい、との主張も見受けられたが、それも違うと思う。

 それぞれの世界には、時に一般社会の法より重いルールが存在し、明文化されているものもあれば、不文律やおきてとして存在するものもある。ましてコロナ禍である。

 朝乃山のしたことに対する八角理事長(元横綱北勝海)はじめ日本相撲協会幹部の怒りは、激しかった。世の中も相撲界も観客も、大きな犠牲を払ってコロナ対策に取り組んでいる時だったこと。事情聴取で「うそだけはつくなよ」と念を押したのにうそをついたこと。大関という地位にあること。

 八角理事長は「コロナがなければ、元気だなあ、で済む話」と言ったように、法に触れたわけではないことなど百も承知の上で、「感染して来てみんなに広がって、本場所が開けなくなったら責任を取れるのか。取れるわけがない」「全協会員を裏切った」と断じた。協会員だけではない。コロナ対策に詳細な指導を仰いで来た専門家も裏切ったのだから、親方衆から「処分が明けて復帰しても、引退後は親方にさせない」などと先々の話まで出たのも無理はない。

 だから、こと朝乃山に関しては、もう本人が死に物狂いで番付と信頼を取り戻すしかなかった。協会が一度決めた処分を変えたら変えたで、批判されるのは目に見えている。

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