会員限定記事会員限定記事

◆コラム 土俵の上と下と外と 夏場所を歩く
 若林哲治の土俵百景

2022年05月12日14時00分

番付が溶けかかっている

 夏場所初日の幕内後半。このたび審判部に配属された二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)が西土俵下に座ると、大きな拍手が起きた。やはりスターが見える所にいるとファンは喜ぶ。かつて元横綱輪島、元大関貴ノ花(初代)らが審判になった時、「土俵下の充実だな」と言った先輩記者がいた。

【写真特集】珍しい決まり手

 親方は部屋を開いたばかりで両立は大変だが、「部屋が遠い(茨城県)から、これまでのように拘束時間の長い警備よりは助かるだろう」と話す先輩親方もいる。

 それにしても、「土俵下」より肝心の「土俵上」はどうしたことか。初日の幕内は大半が凡戦。迫力満点の押し相撲なら見ごたえがあるし、四つ相撲だけが技能ではないが、こうも淡泊な勝負が続いてはいただけない。

 2日目からは少し熱戦も見え、琴ノ若が初日から3大関を連破した。11勝した先場所あたりから一番一番、必死な姿勢が見える。まだ型ができる様子はないが、いろんなことをして勝とうとしている。豊昇龍、霧馬山にも上を目指す欲が見えてきた。

 とはいえ、それもこれも強い上位陣を苦しめてこそ。もう正代や貴景勝に勝った力士を、いちいちインタビュールームに呼ぶ必要があるだろうか。特に高安が呼ばれると、違う意味もあって見ているこちらの気持ちがざらつく。

 新型コロナウイルス危機が訪れる直前の20年初場所、徳勝龍が優勝した時に「番付が溶けていく」と書いた。本当に溶けかかっている。御嶽海が照ノ富士とともに2本柱になる気概を見せてくれればと期待したが、3日目で2敗。果たして巻き返せるか。

 そんな土俵とは裏腹に、館内はにぎわいが戻りつつある。日本相撲協会はコロナ対策の入場者数上限を、春場所で定員の75%に、今場所は87%、9265人まで戻した。名古屋場所で100%にする予定だ。

 エントランスを入ると、行列が3列できていた。一つは地下大広間で再開された「国技館ちゃんこ」の「開店」を待つ人たち。二つ目は新たに始まった「ガラポン抽選会」。もう一つは相撲博物館での初場所に続く第2回「白鵬展」に並ぶ人たちだった。

 相撲案内所も2年ぶりに再開され、相撲情緒の一つである、裁付袴(たっつけばかま)の出方が行き交う姿が見られた。

バックナンバー

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ