番付一枚、紙一重
 若林哲治の土俵百景

SNS騒ぎの愚かさ

 九州場所が始まった。終盤戦に行く予定で、まだ東京で他の仕事をしながらテレビで見ているだけだが、序盤戦は朝乃山や明生のはつらつとした相撲が目立った。

 北勝富士の取り口にも目を引かれた。立ち合いから脇を締め、3日目の宝富士戦は右から、4日目の高安戦は左から鋭くおっつけて快勝している。今までは突き押しが大振りで、ともすれば気合や力がロスしているような攻めが多かったが、これが続けば楽しみになる。

 だが、彼らの奮闘があっても、土俵の寂しさは隠しようがない。5日目までで幕内の休場が6人。やむを得ないけがもあって全てを責められないが、電話をくれた福岡の知人が突き放した口調で言っていた。

 「いつ来ると? 来てもつまらんやろ。どうせ白鵬も途中で休むっちゃろ」

 一見、相撲人気は続いているように見えるが、冷めてきたファンが少なくないことを相撲界の人たちは肝に銘じてほしい。

 横綱は休んでばかり。大関陣はかど番と転落の繰り返し。三役や幕内に「定着」するという言葉があるが、今や大関にも当てはまる。貴景勝は横綱を狙う前に「大関定着」が先決になった。御嶽海の大関とりは、早々と消えた。小結4人は13年ぶりだという。いずれ横綱・大関がいなくなり、3関脇4小結などという番付もありそうだ。

 番付という屋台骨が揺らいでいる時に、余計なことをして足を引っ張る者もいる。

 場所前、小結の阿炎と十両の若元春が、インターネットの交流サイト(SNS)に粘着テープで相手を縛るなどした動画を投稿して、日本相撲協会から厳重注意を受けた。2人は反省文を提出し、阿炎は報道陣に「自覚が足りなかった」と話したという。

 開いた口がふさがらない。飲食店の厨房で非常識な行為をして動画を投稿するアルバイトと同じ。一見してふざけているとは分かるが、時津風部屋の傷害致死事件からまだ10年余。実際にまだリンチが残っているのではないか、殴ってはいけないから粘着テープならいいと思っているのかと、想像する人たちも少なくないだろう。

 その少し前、立呼出の拓郎が、お客さんの座る席で食事をしている若手をコツンとやって退職届を出す事態が起きた。暴力といえば暴力であって、みんなの手本たる立場としてまずいことはまずいが、拓郎と阿炎、若元春のどちらが相撲ファンに幻滅を与えたか。

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