まさか、これほど世界中をくぎ付けにし、感動を誘う大ニュースになるとは、当初思わなかった。ニュースの「価値」は日々変わる。閉塞感が漂う今日、希望や明るい気持ちを与えてくれる話を、世界の皆が望んでいたのかもしれない。
南米チリの北部コピアポ近郊にある、サンホセ鉱山での作業員33人救出劇。昼は30度近くTシャツ1枚で十分な暑さとなり、夜は氷点下近くまで気温が下がるアタカマ砂漠のど真ん中の現場で、幸運にもあの興奮を間近で体感することができた。
(サンパウロ特派員 鈴木克彦)
「われわれは避難所にいて無事だ。33人」。8月22日。落盤事故から17日間も地下に閉じ込められた作業員は、地上からの掘削ドリルに赤ペンで走り書きしたメモをくくりつけ、送り返した。生存を伝える待望の知らせに、家族や世界が沸き立った瞬間だった。
それから数日間、任地のブラジル・サンパウロでチリからの報道などをウオッチし、原稿を書き続けた。しかし、もどかしい。現地はどんな場所なのか、家族や救助隊が置かれている現状は…。記事には現場の「におい」「臨場感」「息づかい」といった要素をにじませたいと思うのが記者心理だ。現場へ行かないとそれは分からない。幸い、本社側の理解もあって、直接取材に行けることになった。
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