50度ほど傾いたときだったと思います。海軍では持ち場を離れることは許されていないのですが、ついに「逃げろ」を意味する「総員、最上甲板へ」という命令が出ました。
海に飛び込むしかないと思ったときです。目の前にいた少尉が戦闘服を脱ぎ、ベルトを外しました。戦闘帽を日本刀に巻き、腹に刺したのです。少尉は一気に腹をかっさばき、大量の血が噴き出した。当時は割腹の方法も習っていましたが、その通りに実行しました。
「やめてください」と言いたいが、凍りついて声が出ません。世話になった少尉の割腹は、17歳の自分には信じられない光景でした。震え上がったまま、静かに敬礼しました。気付くと艦は90度まで傾いていて、波が目の前まで来ていました。
艦橋から海に飛び込みましたが、今度は沈む大和がつくる大きな渦に巻き込まれました。水圧で胸が締め付けられ、息ができません。午後2時23分、大和は沈没し、爆発。その衝撃で海面に浮き上がったのですが、鉄片で右足を負傷しました。爆発後、しばらく気を失っていたと思います。
泳ぎは得意だったのですが、傷を負ったこともあり、重油があふれる海で溺れだしました。「助けてくれ」と思わず叫んでしまい、すぐにしまったと後悔しました。
すると、そばにいた高射長が近づいてきました。怒られるのかと思ったのですが、高射長は「落ち着け。もう大丈夫だ」と優しく声を掛けてくれました。そして「お前は若い。頑張って生きろ」と、つかまっていた丸太を渡してくれたのです。礼を告げた後、しばらくの間、泣いていました。
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