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問われる「大会後」「選手第一」 22年北京冬季五輪予定地を歩く

冬季競技を育てるために

 2月に韓国の平昌で行われた冬季五輪は、羽生結弦(ANA)のフィギュアスケート男子連覇などが日本のファンを沸かせた。次回2022年の開催地は08年に夏季大会が行われた北京。五輪を複数回開催した都市はあるが、夏と冬の大会を開く都市は初めてとなる。巨額の経費を要し、夏冬とも立候補都市が急減して曲がり角にある五輪が厳しく問われているのは、五輪の後に何を残すか。北京冬季五輪会場予定地を見て歩き、「大会後」の青写真を聞いた。(時事通信社運動部・和田隆文)

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 北京の中心部では主にスケートやアイスホッケーなどの氷上競技が行われ、雪上競技のスキーやスノーボード、そり競技は北京市北西部の延慶と、さらに北西に位置する河北省張家口が会場になる。

 北京や延慶、張家口の街中には社会主義や中国の希望などを強調するスローガンが至るところに掲げられている。冬季五輪に向けて新設する会場の建設地も例外ではない。そこには「習近平」の文字も目立つ。絶大な権力を持つ最高指導者の名を見るたび、失敗が許されない緊張感が伝わる。

 張家口に新たに造られるジャンプ、距離、バイアスロンのスキー会場や選手村、その近くまで延伸する北京からの高速鉄道網などの建設予定地はまだ、ほぼ更地だ。しかし、完成時期を聞くと、判で押したように「2019年末」と返ってきた。あと1年半しかない。今回の会場視察ツアーは、人民日報社が主催したメディアフォーラムの一環で、大会組織委員会の会場担当者が同行した。海外メディア向けに聞こえの良い計画を掲げているのかと思ったが、中国の事情に詳しい人は「中国ならそれくらいやる」という。無理な計画でもなさそうだ。

 組織委の公式文書には大会ビジョンがシンプルに記されている。直訳すると「混じりけのない氷と雪の上で冬季スポーツへの何億人もの情熱を結びつける楽しい場所に」。五輪を通じて国内の冬季スポーツを発展させ、スキーを中心に競技人口を底上げしようとする意欲は既に現れていた。

 北京市内ではアイスホッケー、フィギュアスケート、スピードスケート・ショートトラック、カーリングの練習リンクを造り、大会後は選手育成に役立てる計画だ。新設するスピードスケート会場の「国家速滑館」は、22本の氷のリボンのような帯で取り囲む外観から通称「氷糸帯」。08年夏季五輪で開閉会式や陸上競技などの会場となり、22年冬季五輪でも使われる国家体育場(通称「鳥の巣」)、国家水泳センター(通称「水立方」)と合わせて北京の「3大建築」となる。大会後はアジアにおけるスケート競技の発展を促す基地にする構想も進んでいる。

 スキー会場が集まる張家口でも、大会後には会場周辺の関係者通路などの跡地を利用して、全長2.5キロある全天候型の屋内クロスカントリースキーコースを造るという。サマー大会を開くほか、競技の裾野を広げるため観光を兼ねた体験施設にする計画だ。

 中国は夏季五輪ではメダルランキングの上位に顔を出す屈指の強豪国だが、冬季五輪では苦戦している。1980年レークプラシッド五輪で初参加し、初のメダルは92年アルベールビル五輪の銀。金メダルは02年ソルトレークシティー五輪でショートトラック女子の楊揚が初めて獲得し、これまで計13個にすぎない。自国開催が冬季競技でもスポーツ大国に成長する足掛かりになるか。

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