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水問題克服へ「百年の計」【地球コラム】

2022年12月31日11時00分

汚水、海水もフル活用

 地球温暖化に伴い水不足が世界各地で深刻化している。564万人と兵庫県並みの住民が淡路島ほどの国土に暮らすシンガポールも、雨量は多いものの平地ばかりで保水力が弱いため水自給は難しく、国家存亡にかかわる重大事として、1965年の独立から「国家百年の計」で取り組んできた。雨水、汚水、海水をフル活用する仕組みが整いつつあり、悲願の「水自給率100%」が見えてきた。(時事通信社シンガポール支局 新井佳文

四つの「蛇口」

 「シンガポールには水源となる四つの『蛇口』があります。マレーシアからの輸入水、貯水池にためる雨水、海水の再生水、そしてニューウオーター(汚水再生水)です」。公益事業庁(PUB)が東部チャンギで運営する水処理工場を訪れると、係員が解説してくれた。国内にはこうしたニューウオーター製造工場が4基ある。

 下水は工場でフィルター処理された後、細菌やウイルスなどの不純物をろ過により除去し、さらに紫外線による殺菌を経て、きれいな水に生まれ変わる。人間の排せつ物さえ含む汚水の再生水を飲むことには抵抗があるかもしれないが、国民の受容度は高まっているという。係員は「ニューウオーターは主に工場やビルの冷却システムで使われ、一部は上水道にも供給されて飲み水となります」と話した。目指すは、「一滴残らず回収」「無限に再利用」だ。

 ニューウオーター実用化に、日本人研究者が貢献している。東京大学の山本和夫名誉教授だ。山本氏は1988年、世界で初めて実用化された浸漬(しんし)型膜バイオリアクター(MBR)の試作開発に成功。特許を主張しなかったことから自由な研究開発が促され、シンガポールも下水排水処理にMBR技術を取り入れた。政府は今年3月、水問題解決に貢献した人をたたえる「リー・クアンユー水賞」を山本氏に贈り、敬意を表した。

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