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ある日突然、浪曲に惚れた③~玉川太福さん「地べたの二人シリーズ」

2021年06月23日

放送作家+声の魔力

 太福さんは、小学生の頃から「夢はコント作家」と思い続け、大学卒業後は放送作家の事務所に入ってコントを書いたり、お笑いやお芝居をしたりしてきました。行き詰まった時にすすめられて行った木馬亭で、のちに師匠になる故・二代目玉川福太郎を聴き、声の迫力、抜きんでた表現力に魅了され、入門を決めました。27歳の時です。太福さんは自身のサイトで入門のきっかけについてこう書いています。

 「この圧倒的な表現力、浪曲という声の魔力に満ちた世界に、自分がもともと面白がっていたような笑い、物語をのっけたら、一体どうなるのだろう…、そんなことを想像しはじめていた」

 入門から14年が経ち、太福さんはその妄想を浪曲作品として完成させ、唯一無二の世界を創り出しました。「地べたの二人」シリーズは、お笑いをやっていたころにコントとしてつくったものが原型になっているのだそうです。なんでもない風景や会話のなかから笑いのツボとなる部分を抽出し、細部を積み重ねて浪曲の節に乗せていく。誰もがやっていないことだけに、完成させるまでには試行錯誤があったことでしょう。

「男はつらいよ」全作浪曲化に挑戦

 太福さんは、自身の自転車に起きた出来事を綴った「自転車水滸伝~ペダルとサドル」や下町の銭湯を題材にした「銭湯激戦区」など、時にクスクス、時にガハハと笑える可笑しみのある新作を生み出し続けています。山田洋次監督から許諾を得て、「男はつらいよ」全作浪曲化にも挑戦しています。また、落語家の春風亭昇々、瀧川鯉八、立川吉笑と結成した創作話芸ユニット「ソーゾーシー」で活動をし、落語芸術協会に加入して春風亭昇太一門として寄席に出演したりと、浪曲の枠に止まらない活躍ぶりです。

 太福さんは、新作と同じくらい古典も大切にしています。玉川のお家芸とされる任侠ものの「天保水滸伝」を演じる太福さんは、「地べたの二人」とはまったくの別人になります。眼光鋭く凄みのある表情、圧のある声で唸り、節を回せば、怖さに震えるときもあります。太福さんは二人いるのか、とその違いに驚かされるのですが、「地べたの二人」で見せるときの、のほほんとした表情とのギャップがまた魅力なのです。

 浪曲は古めかしい? 堅苦しい? そんなイメージがありますが、とても自由な演芸のように思えてきました。

 もともと浪曲は大道芸の一つだったそうです。成立したのは幕末です。説経節や祭文節、阿呆陀羅教、チョンガレなどをもとに、民謡や俗謡も取り入れたといわれています。それぞれの時代のなかで大衆に受け入れられるよう、さまざまな芸能を取り入れたり、新しいことに挑戦したりしながら進化してきました。演目内容のしばりもありません。とりわけ玉川の一門は、先人の流れを受け継ぎながら、自分の型を作っていけというのが教えです。自由であれというのは、浪曲の伝統といえるもの。太福さんはその伝統を活かし、新しい世界を切り開いているのです。(2021年6月23日掲載)

玉川太福(たまがわ・だいふく) 1979年新潟市生まれ。2007年、二代目玉川福太郎に入門。「地べたの二人」などの創作で注目を浴びる。第1回渋谷らくご創作大賞、第72回文化庁芸術祭・大衆芸能部門新人賞受賞。第37回浅草芸能大賞新人賞受賞。相三味線を務めるのは、故・玉川福太郎夫人である玉川みね子。

〔作品情報〕
CD『浪曲 玉川太福の世界(古典編)』『浪曲 玉川太福の世界(新作編)」(ソニーミュージックダイレクト)
DVD『新世紀浪曲大全  玉川太福』(クエスト)
雑誌『浪曲師 玉川太福読本』(シーディージャーナル)
CDブック『やる気が出る 外郎売CDブック』(自由国民社)

◆ある日突然、浪曲に惚れた
①玉川奈々福さんの魅力
②浅草「木馬亭」へ行こう

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