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問われる生命の重み ペットショップの裏側で

加速する大量生産と大量消費

 上原さんの意図を確かめるべく、3月3日にペットパーク流通協会(埼玉県上里町)まで会いに行ってきた。本人はそのメディアの電話取材に応じたものの、頭数制限の緩和まで環境省に要望するとは言っていないと語った。その日は毎週水曜のオークション開催日。獣医師の健康チェックを経て1頭ずつ秒単位で落札されていく光景は約5年前に取材にきた時と同じだった。ただ、当時は約700頭だった出品数は900頭程度に増え、10万円台が主流だった落札価格も20万~30万円台が目立った。卸売り段階でここまで高値になったのは「コロナバブル」の表れだろう。

 杉本さんはオークションが「大量生産・大量消費」を可能にしてペット業界を巨大化させ、行き過ぎた商業主義が悲惨な死をもたらしていると批判する。だが、上原さんは「消費があるからわれわれが成り立つ。われわれがあるから消費があるわけではない」と述べた。さらに、動物愛護法の改正を受けてブリーダーの飼養審査を強化するためのチェックシートを作成中だと語り、見本を見せてくれた。

 環境省の審議会で業界側は、ペットパーク流通協会の会員ブリーダーの約65%が従業員1人当たり15頭以上の繁殖犬を抱えているとするアンケート結果を示した。上原氏はこの数字を事実だと認めながらも、来年6月以降に省令案の頭数制限に抵触する会員が出れば「一度改善を求め、改善しなければ退会処分にする」と明言した。ただ、退会処分にしたブリーダーは、基準の緩いオークション業者に流れるだろうとも嘆いた。

 ちなみにペットパーク流通協会に未加盟の国内最大手オークション業者は、取材には応じていない。

「当たり前」の違いと重さ

 省令案について「私たちが当たり前だと思っていた一般常識を、業界に突き付けたことは画期的だ」と日本動物福祉協会調査員の町屋奈さんは語る。具体的には、帝王切開はブリーダーではなく獣医師が行い、健康診断を年に1回受けさせ、一生の出産回数を一定以内に抑えることなどを求めた点である。

 ペットの健康を考えればごく当たり前に思えるこうした行為は、犬や猫を「商品」としか見ない業者からすれば、利潤追求の上では余計なことだろう。同協会は2016年、最大200頭近い犬猫を極度に劣悪な環境に置いて一部を死なせていた栃木県の業者を告発して書類送検と廃業に追い込んだ。2018年には実質1、2人のスタッフで362頭の犬を飼育していた福井県のブリーダーを告発している。

 筆者自身、鳥かごに猫を入れっぱなしにして売っているショップを見たことがある。こうした惨状も、行き過ぎた商業主義からすれば「当たり前」の光景だった。飼養基準の導入は、この状況が変化を強いられている証しでもある。

 完全施行3年先送りについて町屋さんは「やむを得ない措置だが、ペット業者を甘やかすためではない」と語る。頭数制限からあぶれる犬猫が今年6月に出た場合、悪質な業者であればあるほど彼らを、2016年に告発された業者のような「生き地獄」に送る可能性が大きいからだ。

 町屋さんは、当初の想定よりも緩いとはいえ来年6月に頭数制限が導入される事実を強調する。「その時点で行政が毅然(きぜん)と処分することが重要。検査の日だけ業者が臨時で人を置くなどして実態をごまかせないよう、チェックは抜き打ちでやらないとダメ」。頭数制限の導入が第1種業者と第2種業者で1年ずれる点も懸念している。来年6月から頭数制限が適用される第1種が、その時点では飼養数規則のないボランティアなど第2種に犬や猫を押し付ければ、多頭飼い崩壊の連鎖を招くからだ。

 自治体が業者のチェックに使う予定の飼養基準の解説書については、この3月から作成が本格化する。同協会は自治体担当者と業者の双方に分かりやすい解説書づくりに向け、エビデンスに基づいた具体的な要素を盛り込むよう、環境省に要望提案していく方針だ。頭数制限以外の飼養基準は、早ければ今年6月から適用される。注目点は「3年後」ではないのである。

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