犬や猫が法的に見ても「物」から「生命ある存在」へと変わりつつある。2019年6月成立の改正動物愛護法に遺棄・虐待への罰則強化、ペット業界による飼養(飼育)の適正化などが盛り込まれたことが大きい。しかし、適正飼養の具体像として環境省の審議会でまとまった省令案では、今年6月と見られていた飼養頭数制限の完全施行が、3年先送りされた。
テレビやネットではかわいさを振りまく犬や猫の動画が連日流れ、コロナ禍の「巣ごもり」もあって生体販売はバブルの様相を呈している。そうした中、彼らの「福祉」はどう変わろうとしているのか、飼い主のいない猫の保護や里親探しを続けてきた筆者が、実態をリポートする。(ジャーナリスト・草枕信秀)
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本論に入る前に犬や猫がペットショップの店頭に登場するまでの簡単な仕組みと数字を紹介する。彼らの多くは、繁殖業者(ブリーダー)が出品するオークションで落札される。こうした営利目的の「第1種動物取扱業」には自治体への登録や届け出が必要だ。筆者のようなボランティアは非営利の「第2種動物取扱業」である。環境省によると2020年4月時点で、国内で登録しているブリーダーは1万2949、オークション運営業者は28となっている。
国内販売される犬猫数の公式統計はないが、環境省幹部は昨年の審議会議事録で「年間50万頭ぐらい」と述べている。ペットフード協会の推計によると、2020年10月現在の全国飼育頭数は犬849万頭、猫964万頭の計1813万頭で、 同9月1日現在の15歳未満人口1504万人(総務省統計)を大きく超える。
杉本彩さんの懸念
「環境省にクギを刺しに来ました」。21年2月22日夕、「動物環境・福祉協会Eva」の杉本彩理事長は環境省の担当者と面談した直後、筆者にこう語った。きっかけは、頭数制限の完全施行3年先送りをとらえて、あるメディアが「ペット業界の声届いた」と報じたことだった。その記事はオークション業者で構成する「ペットパーク流通協会」の上原勝三会長が、先送り後の頭数基準ですらペット業界には厳しいとした上で「省令の改善を求めたい」と語ったと書かれていた。
頭数制限の内容は表の通り。当初は、今年6月から従業員1人当たりの飼養数を犬20頭(繁殖犬では15頭)、猫30頭(同25頭)に制限する方針だった。しかし、審議会でペット業界側は「繁殖犬を1人当たり15頭に制限したら全国で13万頭の繁殖犬が行き場を失う」(審議会資料から抜粋)などと主張した。結果として、来年6月時点で第1種事業者に「犬30、猫40」を課し、そこから段階的に制限が強化されることになった。
杉本さんらは1人当たり10頭以下に制限するよう求めていた。あるショップの店員から「限られた勤務時間内で接客もしなければならないのに1人20頭を割り当てられ、子犬や子猫を死なせてしまっている」との内部告発があったためだという。完全施行しても20~30頭なのに、さらに緩める可能性があるのであれば、クギを刺したくなる気持ちは分かる。なお、猫の保護や里親探しをしている筆者の実体験からすると、10頭の世話ができるだけでも「超人」にしか思えない。
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