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35歳で老人扱い?【洞察☆中国】

2023年09月12日11時00分

日中福祉プランニング代表・王 青

 先日、あるニュースが中国で話題沸騰となり、中国最大のSNSである微博(Weibo)だけでも、わずか数日間でアクセスの数が1.4億を超えたという。

 それは「ユースホステルが35歳以上のお客さんの宿泊を拒否した」と報じられたものだ。幅広い年代の人が宿泊することができるはずが、最近、35歳以上のお客さんの宿泊を断るユースホステルが各地で続出しているという。

 マスコミの取材に、ホテル側は「拒否の理由はたくさんある。主に35歳以上のお客さんは生活習慣が若者と異なり、対応しがたい。また、部屋にあるのは2段ベッドであるため、35歳以上となると体力が落ちて、事故を起こしやすいのでリスク管理が困難だ」と話した。

 これに対して、ネットでは非難の声が噴出した。「35歳は壮年のはずなのに、生活習慣から体力まで、いつの間に老人扱いされるようになった!?」「職場の暗黙のルールをいやが上にも想起した。見極めされる年齢だ」「35歳という年齢で判断されるなんて、立派な差別だ!」

 近年、中国では「中国式の中年の危機」がたびたび話題となり、注目されている。

 35歳となると、就職や転職の壁が一気に高く、厚くなるのだ。中国の公務員試験の応募の年齢制限は一般的に18歳から35歳まで、今期卒業の修士と博士であれば、40歳までとされている。年齢を重ねるほど不利になるのは一目瞭然である。

 そして、民間企業も事情は同じだ。多くのシンクタンクの調査によると、中国の大手IT企業の社員の平均年齢は35歳以下である。例えば、中国最大の生活総合プラットフォーマー「美団」(Meituan)や配車サービス大手「滴滴」(DiDi)などは、社員の半分以上が30歳未満だ。

 「中華全国総工会」(中国の労働組合の全国的連合組織)が2022年に実施した全国調査で、35~39歳の会社員のうち、54%が職を失うことを恐れ、70%が仕事の技能が遅れることを心配している。そして、職場でストレスを感じている人が94.8%にも上っているという調査結果が明らかになった。

 新型コロナウイルス禍の3年間、国の政策により、IT関係や不動産、校外学習塾などの産業は直撃を受けた。大量の失業者が出た結果、大勢の人がデリバリーやタクシー運転手などのアルバイトを余儀なくされた。その中には、35歳前後の人が多く含まれている。

 今年に入ってから状況はさらに悪化している。中国統計局が直近で発表したデータによると、6月の16~24歳の失業率は21.3%で、統計が始まってから最悪を更新した。これは政府の統計データだが、中国国内の研究者は46.5%に達した可能性があると指摘する。

 若者が失業すれば、次に影響を被るのは35歳以上の人たちである。最近、SNSなどで「失業した中年男性がスタバ(スターバックス)に集結している」という話題が多い。その背景には、人員削減の影響で、大手IT企業などをクビになった中年サラリーマンが増え、家族に「失業中」と言えず、かつて商談の場所であったスタバで、一番安い飲み物を注文し、一日中ノートパソコンとにらめっこして、再就職先を探しているためである。

 本来なら、中年世代は人生や仕事の経験を積んでおり、一番の働き盛りである。「人生100年時代」といわれる今の時代、35歳で「もう先がない」というレッテルを貼るような社会はあまりにもゆがんでおり、冒頭のユースホステルへの批判は、人々がこのような現状を変えていかなければならないという強い思いの証しであるだろう。(7月25日記)

 (時事通信社「金融財政ビジネス」より)

 【筆者紹介】

 王 青(おう・せい) 日中福祉プランニング代表。中国・上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業。アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞社、ATCの3者で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATCエイジレスセンター」に所属し、 広く福祉に関わる。

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 (2023年8月24日掲載)

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