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中国の「不動産神話」が崩壊? 気になる中古マンション事情【洞察☆中国】

2023年07月29日15時00分

日中福祉プランニング代表・王 青

 最近、巨大経済都市上海をはじめ、中国の各都市で中古マンションの売却登録数が急増している。

 値下げをしても売れない。このことが大きく話題となり、注目を集めている。多くの中国人にとって、不動産は常に生活の中心で、最も重要な財産であるからだ。

 ◆半端ない高騰ぶり

 2019年10月に中国人民銀行が、全国30の省・市の3万世帯に対して行った調査によると、都市部の世帯の資産の内訳は、自宅の不動産が59.1%で、約6割を占めている。

 そして、負債を抱える世帯は56.5%であり、そのうちの約8割が不動産ローンによるものだという。昔から中国人は「自分の家を持てば安心」というこだわりがある。

 20余年の間、急速な経済成長に伴い、都市部への人口流入が活発化。投資商品がそれほど多くないことも都市部の不動産価格を押し上げた。

 その高騰ぶりは半端ない。例えば、大都市で20年前に1000万円で買ったマンションが15~20倍に値上がりした。不動産価格の下落を知らず、とにかく「買ったらもうかる」と信じ込んでいる。まさに「不動産神話」を作り上げた。

 ◆神話の崩れ始め

 そのため、人々は不動産の話が大好きだ。日本だと、自宅の不動産の形態や価格などを友人と話すことはあまりないが、中国は違う。筆者もたびたび体験したことだが、人が集まると、不動産が話の「ネタ」になる。

 そして、人が成功しているかどうかも、その人が不動産を持っているか、どのくらい持っているかが、一つの物差しとなる。若者の結婚も不動産に大きく左右される。

 中国では、結婚の際は男性が持ち家を用意するという習慣があるため、お見合いの場で女性側から「マンションを持っているか?」と真っ先に聞かれる。不動産価格の高騰は結婚への厚い壁になり、少子化にも間接的につながっていると指摘されている。

 ところが最近、この「不動産神話」が崩れ始めている。コロナ禍の3年間、中国でロックダウンという厳しい政策が実施された影響などにより、経済が低迷した。一昨年前からまず、地方都市の不動産価格が下落し始めた。

 それでも、一線都市(中国の最も経済が発展している中核都市で、北京や上海、深圳などが該当)は経済の最先端であり、不動産の実需があるので、それほど下がらないだろうとみられていた。

 ◆人気の街が閑散

 特に、国際都市である上海は、これまで多くの外国人が魅力を感じ、街が活気にあふれ、上海が維持できれば大丈夫だろうと、皆がそう思っていた。

 しかし先日、ある不動産仲介会社が投稿した動画がSNSで大きな話題となった。

 動画では、上海にいる外国人に最も人気がある旧租界の街が閑散とし、担当者が「外国人がみんな上海から出ていって帰国した。彼らが借りていた物件が空き家となり急増している。賃貸料金を下げても借り手が出てこない」と話していた。

 理由の一つは、外資系企業が撤退したり、事業を縮小したりしたことにより、多くの駐在員が帰国したからだという。

 ◆売るに売れない

 実際、上海出身の筆者の友人らもその渦中にいる。友人(女性)の配偶者は英国人で、その夫が勤務している外資系企業が中国市場から撤退した。彼女は夫に付いて英国に移住。これまで借りていた、月3万元(約60万円)のマンションを退居したという。

 別の友人は、投資で買っていた数件の物件の借り手が最近、見つからないという。家賃収入で住宅ローンを返済していたが、今は途方に暮れ、「売るに売れない、泣きたい」と嘆いていた。

 一方で、早めに物件を売って、その資金で日本の不動産を買った知り合いも数人いて、明暗が分かれている。

 不動産の投資にはリスクがあるという当たり前の事実。熱気から覚めるにしても、大きな痛手を負うこととなるだろう。日本のバブル崩壊のようになるのか、目が離せない状況だ。(6月25日記)

 (時事通信社「金融財政ビジネス」より)

 【筆者紹介】

 王 青(おう・せい) 日中福祉プランニング代表。中国・上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業。アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞社、ATCの3者で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATCエイジレスセンター」に所属し、 広く福祉に関わる。

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 (2023年7月29日掲載)

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