2023年07月15日13時00分
「江戸の家計簿」(磯田道史監修・宝島社新書)の中に「リサイクル業の発達―大都市江戸の循環型経済」という記述がある。それによると、江戸は極めて高度なリサイクル社会だったようだ。
長屋の大家が共同便所のふん尿を回収業者に売り、業者がそれを畑の肥料にするのは序の口。共同のごみ捨て場の生ごみも回収業者が回収し、新田開発の埋め立てや肥料にしていた。
その他、かまどなどから出た灰は肥料や洗剤、陶芸の仕上げ剤、紙くずはすき直して再生紙としてトイレ用や鼻紙に使用。
鉄くずは鍛冶屋によって包丁やはさみに。傘は竹の骨と油紙に分けられ、油紙は包装紙として利用する。竹の骨については説明がないが、きっと何かに再利用されていたのだろう。
そういえば、古典落語には紙くず回収業者の話がある。「井戸の茶わん」は、善良な紙くず屋さんが、ある浪人から腹籠りの仏像を買ったことをきっかけに始まるドタバタ人情劇だ。
また「紙くず屋」とズバリそのものの演目もある。勘当されて知人の家に居候をしている若旦那が紙くず屋さんになる話である。
紙くず屋さんが、若旦那に「きれいな白い紙は、こちらの籠、汚れたカラス紙はこちら、煙草の箱はここ、ミカンの皮はここ、髪の毛はここ…」と、ごみの分別を教えるところは愉快だ。ミカンの皮は陳皮にするし、髪の毛はびんにするのだ。無駄は何もない。
◆日本人は清潔好き?
トロイヤ遺跡の発掘で知られるハインリッヒ・シュリーマンが「日本人が世界で一番清潔な国民であることは異論の余地がない」(「シュリーマン旅行記清国・日本」(H・シュリーマン著、石井和子訳、講談社学術文庫)と言っているが、これは風呂好きに関してのことではあるが、きっと江戸はごみ一つない清潔な街だったのだろう。
江戸がリサイクル社会だったのは、日本が鎖国し、他国から豊富な物資が入ってこなかったことも要因の一つだろう。リサイクルしなければ、生活は維持できなかったに違いない。
サッカーなどの試合後、日本人の観客がスタジアムを掃除しているのを外国人が感心して、SNSにアップすると、多くの人々が「ニッポンジン、スゴイ」とイイネ!を押す。
確かに一般的には日本人の国民性は清潔好きなのだろうが、一方、河川敷でバーベキューをすれば、ごみを放置したり、産業廃棄物の山を築いたり、ごみ屋敷が問題になったりと、いろいろな人がいるのも事実だ。
さて、私もごみの分別には気を使っているのだが、日本のリサイクルは他の国に比べて優れているはずだと思っているが、果たしてどうなのか。
◆29カ国中の25位
環境省が発表した2019年度の全国の一般廃棄物(ごみ・し尿)の排出および処理状況等は、次の通りだ。
▼ごみ総排出量は4274万トン(東京ドーム約115杯分)、1人1日当たりのごみ排出量は918グラム。
▼ごみ総排出量、1人1日当たりのごみ排出量ともに横ばい。
▼最終処分量は前年比1.1%減少。リサイクル率も減少。
▼リサイクル率19.6%
なんとリサイクル率が下がっているのだ。それにたった2割弱しかない。
EU諸国とリサイクル率を比較した河井紘輔氏の論文(循環・廃棄物のけんきゅう 2020年8月号)によると、18年度においてドイツは67.3%、スロベニア58.9%など、リサイクル率の高い国が目白押しで、日本より低いのはギリシャやキプロスなど数カ国にすぎない。比較された29カ国中25位である。
リサイクル率の計算方法には各国の違いはあるようだが、日本のリサイクル率が低いのは圧倒的に焼却処分しているからだと河井氏は言う。EU諸国に比べて、資源の再処理など本当の意味でのリサイクルをしていないからだ。
◆江戸の方がずっとリサイクル
江戸のように、ふん尿を肥料にしたり、紙くずを再生紙にしたり、かまどの灰を洗剤に使ったりしていないということだろうか。
江戸の方が、現在よりずっとリサイクルしていたのだ。
これは大変なことだ。循環型経済を目指すと言いながら、300年前の江戸の水準に到達していないのだから。
そこで特に問題になっているプラスチックの再資源化などを規制する法律が制定された。
私たちの身の回りはプラスチックだらけである。これが放置されると、マイクロプラスチックとなり永遠に海に漂い、魚などを通じて私たちの人体に影響するのである。w
それに昨今のきな臭い世界情勢を考えれば、エネルギー不足が懸念される。プラスチックは石油から造られるのだが、石油は日本にはほんの少ししかない。
もし日本に石油が入ってこなくなったら、プラスチックは造れない。これって資源の無かった江戸時代と同じではないか。
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