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中国のある都市がコロナ後にバーベキューで爆発的人気を得た理由【洞察☆中国】

2023年06月10日15時00分

日中福祉プランニング代表・王 青

 中国山東省の中部に位置する、人口約470万人の淄博(しはく)市は、これまで知名度は決して高くなかった。

 ところが、ネット上では3月から「淄博・バーベキュー」というキーワードの検索が急増。観光客は2019年と比べ800%増加したという調査データもある。

 現在、中国で最も視線を集め、話題沸騰の都市だ。各地から若者を中心に観光客が押し寄せ、その人数は3月だけで市の人口を超え、延べ480万人と、中国のメディアが報じた。

 なぜ、淄博市の人気がこんなに急上昇したのか。

 ◆学生たち大感激

 淄博のバーベキューは昔から「ご当地グルメ」として定着している。ここ数年、地元政府も「淄博バーベキュー」というブランドをアピールし続けてきたが、ヒットには至らなかった。

 今回、人気が爆発したきっかけは、ゼロコロナ政策が行われた昨年にさかのぼる。約1年前の今頃、山東大学で感染者が出たため、全校生が濃厚接触者として、山東省内の各都市に学生が振り分けられて隔離された。

 淄博市には約6000人の大学生が送られた。市は隔離期間中、これらの学生たちのことをとても気にかけ、歓待した。

 学生たちが隔離期間を終え、別れを告げる際、市は市内の全バーベキューの店を貸し切りにして、送別会を開いた。学生たちは大感激した。いつか「恩返しをしたい」と心に誓ったという。

 そして、昨年末にコロナが収束し、再び淄博市を訪れることができるようになった時、学生たちが友人や同級生を連れて、バーベキューを食べにきたのだ。彼らは、淄博市での体験やバーベキューの写真をSNSで発信した。

 ◆SNSで話題

 これに興味を持ち始め、淄博にやってくる人が続出。実際に体験した人が「味がおいしい、ボリューム感がある、食べ方がユニーク、値段が手ごろ」と発信。

 こうした評判が次から次へとSNSで話題となり、注目されるようになった。この好循環が淄博市のバーベキューに火をつけたのだ。

 これまで、中国の各地でバーベキューなどのご当地B級グルメは一時的に人気が出ても、そのうち、衛生やごみ、ぼったくり、騒音など、さまざまな問題が発生するため、政府に禁止される結末となることが多かった。

 ところが、今回の淄博市は時間がたつにつれ、ますます評判が良くなっていき、その人気は衰えることがない。

 なぜだろうか。専門家は「市政府は、バーベキューというビジネスチャンスをつかもうとし、各部門を動員して連携してスピーディーに対応しているからだ」と分析する。

 ◆観光客の心を打ったのは

 実際、市政府は道路を改修したり、駐車場やごみ箱を増設したりするなど、インフラの整備に乗り出した。

 タクシーの運転手に店の住所を熟知させたり、食品の衛生状態を厳しくチェックしたり、ぼったくり打撲キャンペーンを始めたりして、観光客に気持ち良く過ごしてもらうためにあらゆる措置を取った。

 淄博市の市民たちもごみ拾いやガイドなどのボランティアを行い、一丸となって協力した。「はるばるやってきたお客さんを失望させるわけにはいかない。もはや金のためではない、淄博市の名誉のためだ」と口をそろえる。

 こうした淄博市政府と市民が一致団結している姿が、観光客の心を打ったようだ。SNSでは「もうバーベキューはどうでもいいのだ、観光客に温かく、優しく接する淄博市そのものに魅了された。移住を考えている」のようなコメントが多い。

 コロナの3年間、ロックダウンなどの厳しい感染対策で束縛された中国の人々が、やっと移動が自由になった。その解放された気分を味わうために、国内旅行が急速に回復している。

 コロナで経済への打撃が大きかった中で、淄博市はバーベキューをツールにして観光業で町おこしをする成功例として、多くの都市に良いモデルを示したと言える(4月25日記)。

 (時事通信社「金融財政ビジネス」より)

 【筆者紹介】

 王 青(おう・せい) 日中福祉プランニング代表。中国・上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業。アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞社、ATCの3者で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATCエイジレスセンター」に所属し、 広く福祉に関わる。

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 (2023年6月10日掲載)

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