2023年05月20日10時00分
広島市で開幕する先進7カ国首脳会議(G7サミット)の前、17日に都内のホテルで自民党岸田派(宏池会)の政治資金パーティーが開かれた。あいさつに立った宏池会会長の岸田文雄首相は、次のようにサミットに臨む決意を示した。
◆宏池会で3人目
「宏池会は5人の首相を誕生させた。5人のうち、大平正芳、宮沢喜一、私、岸田文雄の3人に共通することがある。皆さん、何だと思いますか。大平首相と宮沢首相は官僚出身だが、私は違う。宮沢首相と私は広島出身だが、大平首相は違います。宮沢首相と私は酒豪だと言われているが(会場から笑い)、大平首相は甘いものが好きで、お酒はあまり飲まなかった。3人に共通しているのは、7年に1度しか巡ってこない日本でのG7サミットの議長だということです(会場から拍手)」
「大平首相は1979年、当時はオイルショック直後、世界の石油をどうするか大議論が行われたサミットだった。宮沢首相は93年、米ソの冷戦が終わって新しい国際秩序をつくる時に行われたサミットだった。いずれも世界が歴史の転換点に向かう中で議長を務めた。不思議なもので、私もまた、世界が歴史の転換点を迎える中、G7広島サミットに議長として臨むことになる。宏池会出身の首相として宿命を感じずにいられないが、この宿命に真正面から取り組み、この会議成功に努力したい」
◆気になる目線
岸田派のパーティーはコロナ禍以前の立食形式に戻り、にぎわっていた。会場内は多数の参加者で埋まり、マスクを着けていない人も多かった。岸田首相のあいさつは珍しく会場の笑いを取り、もし、亡くなった安倍晋三元首相がこれを聞いていたら、さぞかし驚いたのではないか。「あの生真面目で発言に慎重な岸田氏が笑いを取るまでになったか」と首相のあいさつを褒めたたえたかもしれない。
しかし、私は、首相が何度も目線を下に落とし、紙に書かれたものをちらちら読む姿が気になって仕方がなかった。あいさつで下を向く回数を数えてみたら、9分弱の間に七十数回もあった。
「あいさつを間違えないように、用意された紙を読むぐらい、いいじゃないか」と言う人もいよう。重要な式典でのあいさつなら別だが、自らが会長を務める派閥のパーティーのあいさつで、用意された紙を読み続けるというのは、いかがなものか。
どうも納得がいかない。顔を上げたり、下げたり。たかが派閥会合でのあいさつで、紙に頼らざるを得ないという首相の姿には、いささか幻滅した。
◆「核なき世界」の理想と現実
さて、そのG7広島サミットの焦点は何か。何といっても、被爆地・広島に核保有国を含む各国首脳が集まり、G7がどのようなメッセージを打ち出すかだ。岸田首相にとっては、地元広島で「核兵器のない世界」を目指すことを全世界にアピールするひのき舞台となる。
7年前、広島市で開かれたG7外相会合で、当時外相として議長を務めた 岸田氏は、核廃絶を目指す「広島宣言」を発表。「核兵器国、非核兵器国双方が参加する形で共同で出した画期的文書だ」と強調した。今回のサミットでは、それを首脳レベルに格上げした新たな宣言が表明されよう。
「核兵器のない世界」を目指すとはいえ、現実には「言うはやすく行うは難し」。日本は米国の「核の傘」の下にあり、安全保障は米国の核抑止力にも依存している。それでも、唯一の被爆国として核廃絶の先頭に立たねばならないのが日本の立場のはずだ。
理想と現実をどう近づけるか。ウクライナに侵攻した核保有国ロシアに対し、G7は結束して核使用を阻止する具体的手段を検討すべきでもある。岸田氏も、用意された紙を読むだけでは済まない場面が出てくるかもしれない。
※この記事はG7サミット開幕前に執筆しました
(時事通信社「コメントライナー」より)
【筆者紹介】
村田 純一(むらた・じゅんいち) 1986年早大法卒、時事通信社入社。福岡支社、政治部、ワシントン特派員、政治部次長兼編集委員、総合メディア局総務、福岡支社長を経て、2020年7月より現職。政治部では首相官邸、自民党、民社党、公明党、防衛庁、外務省などを担当し、政治部デスク歴は約7年。時事通信「コメントライナー」の編集責任者で政治コラム等も執筆。
(2023年5月20日掲載)
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