2023年04月29日13時00分
中国で近年、よく耳にする「灵活就業(フレキシブル就業)」。定義は「特定の企業や組織に所属せず、自由で柔軟な働き方をする」。
中国国家統計局が発表した統計によると、2021年の「フレキシブルワーカー」が2億人に達した。つまり、中国の9億人の就業者のうち、約5人に1人が定職に就いていない。
政府系のメディアは、この現象について「デジタルの発展や、伝統産業の雇用形態の変化が多様な就業の形態を生み出した。また、正規雇用から脱却し、柔軟な雇用を目指す若者が増えている」と説明している。果たして実態はそうだろうか。
◆有名大卒がごみ回収で生計
先日、あるニュースがSNSで関心を集め、話題となった。有名大学を卒業した女性は、個人でごみ回収を始め、生計を立てているという。これがネットユーザーの間で熱い議論を巻き起こした。
「何のために大学で勉強したのか? 教育資源の無駄だ」「もう学歴はごみのようになったのか?」と否定的な見方がある一方、「どんな仕事をするのも個人の自由だ。自分の手で自立するのが立派だ」と称賛するコメントも散見された。
しかし、大半は「いかに今の就職が厳しい状況かという事例だ」とみている。
今、多くの人が「失業」と「就職難」の苦境に立たされている。一連の数字がそれを裏付けている。中国国家統計局の最新の発表によると、22年12月の都市調査失業率は5.5%である。
一見してそれほど高くない。しかし、中国では、都市部の出稼ぎ労働者や一度も就職したことがない人、失業して3カ月以下の人、自ら退職した人などは「失業者」に入っていない。「隠れた失業」が莫大にあるのが実情だ。
◆デリバリー業が知識集約型に
また、中国の公式データによると、22年7月まで、都市部の16~24歳の5人に1人が失業している。そして、昨年の大学新卒者数が初めて1000万人を突破し、1076万人となった。今年はさらに増え、1158万人となる予想だ。
中国最大手の人材会社「智聯招聘(ズーリェンザオピン)」の調査によると、今夏卒業予定で就職活動をした学生の内定率は、理系で29.5%、文系12.4%という。少ない雇用機会を巡り、激烈な争いが繰り広げられている。
そうした中で「スロー就活」を志向する大学生が増えている。つまり、時間稼ぎで、大学院に進学したり、自宅で待機したりする人である。多くはデリバリー配達員やネット配車のドライバーなど、ITを利用したサービス業に流れている。
中国最大の生活総合プラットフォーマー「美団(メイトゥアン)」が最近公表した統計では、現在「美団」には約600万人が登録されており、年齢は主に20~30歳に集中している。
そのうち、大卒以上の学歴の割合は約24%であり、大学院卒も数万人いるという。この現象に対し「今やデリバリー業が知識集約型になった」などとしたSNS上でのコメントが、若者の厳しい雇用現状を物語っている。
◆唯一のチャンスのはずが
小さい時から勉強一筋で、良い大学に入り、良い会社に就職し、高い給料をもらうというのが、一般的な人生設計だった。過酷な受験戦争を勝ち抜くために、朝も夜も休日なしで必死に勉強する。
特に、農村部出身の若者にとって、受験は唯一の運命を変えるチャンスといっても過言ではない。そのために家族全員が全力で彼(彼女)を支え、将来「故郷に錦を飾る」と期待した。
ところが、近年の就職難がこのような農村出身の学生を直撃し、田舎の家族に仕送りするどころか、自分が生きていくのにぎりぎりな状況になっている。
政府は最近、「新型プラットフォームを利用する就業・起業や、フレキシブルワークの推進を奨励する」と打ち出している。雇用が厳しい中で「自分たちの生きる道を自らの力で開け」と言っているように聞こえなくもない。
「フレキシブル就業」は若者を救えるのか、行方を追っていきたい。
(時事通信社「金融財政ビジネス」より)
【筆者紹介】
王 青(おう・せい) 日中福祉プランニング代表。中国・上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業。アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞社、ATCの3者で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATCエイジレスセンター」に所属し、 広く福祉に関わる。
(2023年4月29日掲載)
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