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調整能力が出世のカギだった日本企業に今必要なのは「変わり者」【江上剛コラム】

2023年04月08日08時00分

作家・江上 剛

 1月27日付の日本経済新聞に「サイバーの『穴』発見で報奨 NTT、社員20万人対象」という記事が掲載されていた。

 内容は、NTTがサイバー上の弱点を見つけた社員に、通常の給料とは別に報奨金を払う制度を導入したというもの。

 ハッカーに情報を盗まれたり、不正プログラムのランサムウエアで身代金を要求されたり、などのインターネット犯罪が横行し、多くの企業や団体が被害を受けている。

 こうした犯罪から自社のシステムを防衛するために、社員の能力を活用しようというものだ。「国内企業のモデルケースとなる可能性がある」と記事は書いている。

 ◆人材確保の大競争

 NTTの試みは、なかなか素晴らしいと、思う。

 しかし、これはNTTのようなITに習熟した人材がいる会社ができることではないだろうか。そうした人材が手薄な企業や団体、中小企業では難しいだろう。

 今はDX(デジタルトランスフォーメーション)ばやりで、リスキリングやリカレントといった学び直しがブームである。

 私が、今、その現場にいたら、ストレスで体に発疹(ほっしん)が出るに違いない。DXと言われても、いまさらITを使いこなせない。

 DXブームの中で、IT能力を向上させようと努力されている中高年社員の方々には、敬意を表する次第である。

 現在は人口減少の時代である。少子高齢化で労働力が不足し、IT人材だけではなく、あらゆる分野の人材確保に苦労することになる。人材確保の大競争が始まるのだ。

 労働力としてカウントされるのは、15歳から64歳である。その人口が減ってくる。それを埋め合わせるために中国、ベトナム、ミャンマーなどから研修生として受け入れているのが、今の日本である。

 しかし、それらの国々の人々は、豊かになり、過酷な労働で給料も安い日本を敬遠するようになってきた。

 ◆特別な才能ある子たち

 ならばどうするか?

 私は、以前、このコラムで定年退職の制度を廃止したらいいと提案した。その代わり、65歳以上の人材は、その経験や能力を生かすためにジョブ型雇用制度を適用して、それらに応じて報酬を提供することを制度にしたらいい。

 多くの会社で、60歳や65歳で定年を迎えた社員には、一律、給料を下げる再雇用制度が適用されている。

 これでは彼らの能力や経験が生かされない。彼らにふさわしい仕事を与え、それに応じて報酬を支払う制度にすべきだ。一律というのは悪平等である。

 彼らだけの会社をつくって、仕事を委託してもいいだろう。

 労働力が不足するなら、高齢者が働きがいを持って働いてもらえるかを考えるべきである。

 もう一つは、15歳以下の人材を生かすことである。これは児童労働の話ではない。

 才能というのは、何も大学卒業後に発揮されるわけではない。もっと若い、否、幼いうちから発揮されるのである。

 ギフテッドと呼ばれる特別な才能のある子どもたちがいる。

 幼いにもかかわらず、高等数学を解いたり、大学生も読めない本を読んだりする子どもたちのことだ。

 彼らは、一律で横並びの現在の教育に馴染めないため、不登校になることもあるようだ。

 ◆出る杭を伸ばす社会

 そうした才能を生かすために文部科学省は、飛び級制度を制定したり、東京大学の先端科学技術研究センターでは異才発掘プロジェクトがギフテッドの教育に乗り出していたりする。

 しかし、この才能を実社会の発展に生かすためには「出る杭を伸ばす」という考えが社会に浸透しなければならない。

 せっかく世界を変えるかもしれない能力を持ちながら「変わり者」と位置付けられ、社会の隅に追いやられないとも限らない。

 彼らの才能を将来にわたって生かす研究環境を大学や企業がつくっていくことが必要だろう。

 せっかく飛び級して大学に進学しても、その後の人生までケアし、世間の同調圧力に押しつぶされないようにする仕組みが必要だ。

 また、そんなギフテッドだけではなく、15歳以下の子どもたちに企業が製品や仕事の仕組みを変えるアイデアを募る仕組みをつくったら楽しいのではないか。

 彼らが担う将来にとって必要な物や仕組みを学校教育の一環、あるいはサークルとして取り組んでもらい、正当な報酬を支払うのだ。

 ◆キーワードは「楽しい」

 今までは、大人が社会の仕組みを教えるという姿勢で、実社会教育が行われていたと思う。

 それを企業と全く対等の立場で、否、むしろ彼らから大人社会が指導を受けるような仕組みが面白いだろう。

 東京の大企業ではなく地方企業が率先して行えば、地方創生につながる可能性がある。

 いずれにしても、これからの人材不足時代に対処するには、人材不足を嘆く前に、今まで活用されていなかった人材をいかに活用するかを考える必要がある。

 その際のキーワードは「楽しい」ではないだろうか。人に命じられるのではなく、自ら進んでやる方が何倍も力を発揮できる。それは仕事が「楽しい」かどうかである。

 さて、こうした人材問題を考えるために参考になるのが「ザ・パターン・シーカー 自閉症がいかに人類の発明を促したか」(サイモン・バロン=コーエン著、篠田里佐訳、岡本卓・和田秀樹監訳、化学同人刊)である。

 著者は自閉症研究の第一人者である。

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