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突然のゼロコロナ撤回で感染爆発に医療崩壊、それでも闘った人々【洞察☆中国】

2023年03月04日12時00分

日中福祉プランニング代表・王 青

 中国の上海市政府が1月初旬、「最前線の医療従事者に保障を与える」と通知した。新型コロナウイルス感染症の治療に当たる第一線の医療関係者らに一時奨励金を支給するという内容。金額は6000元(約12万円)である。

 奨励金の支給対象は、大学病院や公立病院の現場の医療従事者や救急車の運転手、担架担当者を含んでいる。

 ◆看護師の知人が語ったこと

 SNSには「医療従事者に奨励金を支給することに大いに賛成する! 彼(彼女)らはまさに『白衣の天使だ』!感謝している!」「6000元は少ない。彼らの献身的な奮闘ぶりは何倍の金額でも値する!」といった支持する声があふれた。

 中国政府は昨年12月上旬、約3年にわたり実施してきた「ゼロコロナ政策」を突然解除した。「ゼロコロナ」から一気に「ウィズコロナ」へと大きくかじを切った。

 急な政策転換に加え、オミクロン株の感染力が高かったため、市中感染は急拡大した。上海の大学病院に看護師として勤めている筆者の知人は、次のように話してくれた。

 「感染のピークは12月下旬から年末までの間。発熱外来に患者が殺到した。病室は満室で、仕方なく廊下や玄関のスペースに簡易ベッドと点滴できる椅子を設置した。医者も看護師も次から次へと感染した。感染したスタッフは熱が高い場合を除き、軽症であれば休むことができず、フル稼働した。点滴しながら、あるいは熱で赤いを顔してせき込みながら働く同僚もいた。食事やトイレに行く時間さえなかった。最初に感染したスタッフがちょっと数日間休み、症状が軽減したらすぐ職場に復帰し、新たに感染したスタッフと交代しなければならなかった…。今思えばよく耐えたものだ」

 ◆病院もあらゆる手段で対処

 突然の政策転換で、一般市民だけでなく、医療現場も十分に準備する時間が与えられなかったことは明白だ。激流のように押し寄せる患者の対応と院内感染で、医療崩壊となり、現場は混乱の極みにあった。現場のスタッフはまさに命懸けで臨んでいた。

 病院の多くは、苦肉の策として、救急が少ない整形外科や鼻咽喉科などの医師と看護師を発熱外来に支援部隊として回した。このほか、医療関係の退職者の再雇用や、強制的にスタッフの休暇をキャンセルさせるなど、ありとあらゆる手段で対処した。

 コロナの感染拡大防止の医療現場に立つ医師や看護師は、この3年間、過酷な状況に直面してきた。医師と患者の間であつれきが絶えず、社会問題として取り上げられるほどであったが、新型コロナとの闘いを通じ、国民の中で医療従事者の存在の重要性が再認識されているに違いない。

 だから今回、上海市政府の医療従事者への奨励措置が多くの支持を得られたのだ。浙江省や江蘇省なども、同じように医療従事者へ現金支給をはじめ、さまざまな奨励や優遇政策を行った。

 ◆中国全土で「感染9億人以上」

 さらに、政府は「医療従事者の休息の調整、健康の保持、精神的なケアや補助金の支給などを積極的に行う」と表明した。SNSでは「このような政策は、一時的ではなく日常的に行ってほしい。医療従事者を守ることは、われわれを守ることだ」としたコメントが次々と書き込まれた。

 1月13日、中国メディア「経済観察網」は、「北京大学の推計では、中国全土で総人口の6割を超える9億人以上の感染があった。これは過去3年間の全世界の感染者の合計を超える数字だ」と報じた。

 1月下旬から中国では春節の長い休暇が始まり、延べ約21億人の「民族大移動」となる。今後、第2波、第3波の感染の波がやってくる可能性もある。医療従事者はまた新たな試練を前に自らを奮い立たせなければならないかもしれない。

 編注=この記事は1月下旬に書かれました

 (時事通信社「金融財政ビジネス」より)

 【筆者紹介】

 王 青(おう・せい) 日中福祉プランニング代表。中国・上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業。アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞社、ATCの3者で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATCエイジレスセンター」に所属し、 広く福祉に関わる。

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 (2023年3月4日掲載)

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