2022年02月24日
金正恩・北朝鮮国務委員長とトランプ米大統領との間で交わされた書簡は27通にのぼる。昨年末、ようやくすべての内容に目を通すことができた。書簡から明確に分かるのは、北朝鮮が「無条件対話」に関心がないということだ。よくよく考えれば当然のことではある。
「必要なのは対話ではない。圧力なのです」「対話のための対話では意味がない」と繰り返してきた安倍晋三総理は、2019年5月から一転して「無条件対話」を唱えはじめた。米韓首脳が北朝鮮の金正恩国務委員長との会談を重ね、わが国世論が北朝鮮に対して「圧力重視」と「対話重視」で拮抗(きっこう)するようになってからの転換であった。
しかし、安倍総理の転換に対し、北朝鮮は「面の皮が熊の足の裏のように厚い」と独特の表現で一蹴(いっしゅう)した。安倍政権の退陣後、菅義偉総理も岸田文雄総理も「無条件対話」を踏襲したが、北朝鮮には額面通りに「無条件」とは聞こえないようだ。
北朝鮮は、バイデン米政権による「無条件対話」の呼び掛けにも反発している。昨年9月末、最高人民会議で2回目となる「施政演説」を行った金正恩氏は、米国の提案について「どこまでも国際社会を欺瞞(ぎまん)し、自らの敵対行為を隠すため虚言に過ぎず、歴代の米国政権が追求してきた敵対視政策の延長に過ぎない」と述べている。
欲しているのは「実利ある対話」
「無条件対話」の誘い文句に、なぜ北朝鮮は冷淡なのか。米朝首脳が交わした27通の書簡のうち、最後のやりとりとなった2019年8月5日付の書簡で、金正恩氏はトランプ氏に対して次のように不満をぶつけている。
「私は信頼関係を維持するため、現段階でできる限りのことを非常に迅速且つ現実的に行ってきました。しかし、閣下は何をされましたか。私たちが会ってから何が変わったのか、私は人民にどう説明すればよいのでしょうか」
核実験とICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験を中断し、拘束していた米国人を釈放したにもかかわらず、北朝鮮側が望んだ「実利」が得られていないことへの苛立ちを率直に伝えたのである。
北朝鮮が金日成政権期から韓国に一貫して求めてきたのは、米韓合同軍事演習の中止と国家保安法の撤廃である。後者は韓国の国内法であるため、米国への要求は軍事演習の中止となる。近年はそれに加えて、厳格化された制裁の緩和も求めるようになった。
いくら日米が「無条件対話」を呼び掛けようとも、そうした「敵視政策」の撤回というインセンティブがなければ、対話には応じられないというのが北朝鮮の立場だ。金正恩氏にとって、「合意なし」に終わった2019年2月のハノイ米朝首脳会談のような失態を繰り返すわけにはいかない。欲しているのは「実利ある対話」であり、それが実現するためには長期戦となることも覚悟している。
とはいえ、今年に入って相次ぎミサイル発射実験を行った北朝鮮に対してバイデン政権が一方的に譲歩することは考えづらい。ウクライナ問題などで米国外交における北朝鮮問題の優先順位も下がっている。当面は3月の韓国大統領選挙後に予定されている米韓合同軍事演習が中断されるかどうかが焦点だが、もう一つ、北朝鮮との関係でカギを握るとみられているのが、新型コロナウイルスのワクチンである。
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