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【地球コラム】米動画配信、「広告付き」「テレビ型」に勢い

2022年10月18日14時00分

物価高で高額サブスク敬遠

 サブスクリプション(定額制)で課金する方式が主流の米国の動画配信市場で、料金を無料や低額に抑える代わりに広告を導入する動きが相次いでいる。歴史的な物価高に耐えかねて、視聴者が必需品ではないサブスクのコストを真っ先に削り始めたことが背景にある。

 市場のけん引役は、映画などを好きな時間に一気に見られる「オンデマンド型」だったが、テレビのように広告を挟みつつ、番組表に従って一斉配信する「リニア型」コンテンツを取りそろえるテレビ局主導のサイトも勢いづいている。(時事通信社ニューヨーク総局 松本泰久)

 ◇ネトフリは頭打ち

 米調査会社ニールセンは8月、米国でのインターネットを通じた動画配信の視聴時間が、7月に初めてCATVを上回ったとの調査結果を発表した。

 米国ではこれまで、多チャンネルを束ねてパッケージ化したCATVでの番組視聴が主流だった。しかし近年になって、視聴者がCATVを解約して動画配信に乗り換える、「コードカッター」と呼ばれる動きが台頭。その立役者になってきたのが、巨額の制作資金を投じたオンデマンド型のオリジナル作品を多数提供するネットフリックスだ。ただ皮肉にも、動画配信がテレビ視聴の主役の座を奪いつつあるのと前後して、ネットフリックスの成長には陰りが見え始めている。

 新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要を追い風に急成長を続けてきたネットフリックスの有料契約者数は、需要の一巡で2021年12月末の2億2184万人をピークに頭打ち傾向に陥っている。起死回生策として今年11月に導入を予定しているのが、広告付きの低価格プランだ。米娯楽・メディア大手ウォルト・ディズニーが運営する、ライバルの「ディズニー+(プラス)」も12月に広告付きプランを投入する予定。

 ◇テレビ局が巻き返し

 オンデマンド型のネットフリックスに対し、「トゥービー」「ピーコック」などはリニア型の配信も強化し、従来のテレビのような使い勝手を重視。無料でも多くのコンテンツを視聴でき、スポーツなど生放送のライブ感にこだわる向きや、受け身的な視聴を好む層への浸透を狙っている。

 新興企業のトゥービーは、「メディア王」のルパート・マードック氏が率いる米テレビ大手フォックス・コーポレーションが20年に買収。ピーコックは、3大テレビネットワークのNBCユニバーサルが20年から本格展開している。

 NBCはテレビ放送と連携した動画配信に本腰を入れるため、ディズニーと共同出資する「フールー」に提供していた番組の大部分をピーコックに振り向け始めた。英サッカーリーグ「プレミアリーグ」と巨額の配信契約もまとめ、コンテンツを強化している。ピーコックの有料契約の視聴者数は6月末に1300万人と4月末から足踏みしていたが、NBCのジェフ・シェル最高経営責任者(CEO)は10月に、「1500万人を超えた」と強化策の成果に胸を張った。

 勢いがあるとはいえ、ネットフリックスの背中はまだ遠い。「ユーチューブ」を擁するグーグルや、「アマゾン・プライム・ビデオ」「フリービー」を使い分けるアマゾン・ドット・コムなど、資金量が豊富なIT大手の牙城を崩すのも容易ではない。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、NBCの消費者部門などを束ねるマット・ストラウス氏は「今起き始めているのは、改めてパッケージ化する動きだ」と指摘。群雄割拠の市場において同業他社と手を組み、コンテンツの拡充を急ぐ意向を示唆した。

 ネットフリックスやIT大手などの新興勢力に先を越されたテレビ局が再び「テレビの主役」に返り咲けるか。動画配信市場での競争は、合従連衡の動きも含め新たな段階に入りつつある。(2022年10月18日配信)

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