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【地球コラム】スリランカ、混乱収束見通せず

2022年07月28日15時00分

経済危機下、デモで大統領失脚

 インド洋の島国スリランカで、深刻な経済危機を招いた政権に対する国民の怒りが抗議デモとなって表れ、大統領の退陣にまでつながった。新たな国家元首が選ばれたものの、抗議の声はいまだやまない。(時事通信社ニューデリー支局 植木啓太)

デモ隊、大統領公邸占拠

 直接のきっかけは7月9日の大規模デモだった。野党や学生らの呼び掛けに応じ、最大都市コロンボの大統領公邸周辺に数万人の群衆が集結。邸内を占拠したデモ隊がプールで泳いだり、執務室とみられる部屋で記念撮影したりする様子が報じられた。インターネット交流サイト(SNS)を通じ拡散された豪華な調度品に彩られた邸内の様子からは、国民生活とかけ離れた生活ぶりがうかがえた。

 事前に避難していたゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は13日に近隣国モルディブへ脱出。後にシンガポールに渡り、辞任した。同氏の兄で「政権の最高実力者」と目されてきたマヒンダ氏も抗議デモの高まりを受け5月に首相を辞任しており、長く政治を牛耳ってきた一族が権力の座を追われた形となった。

 「独立以来最悪」と呼ばれる経済危機の最大の要因は対外債務の返済に伴う外貨不足だ。2005年に大統領に就任したマヒンダ氏は中国などからインフラ整備を理由に巨額の資金を借り入れた。しかし産業や雇用を生み出すことはなく、借金ばかりが膨らんだ。外貨獲得の主な手段だった観光業は19年に起きた連続爆弾テロで観光客が減少。新型コロナウイルスの世界的流行も追い打ちを掛けた。

 19年に大統領に就いたラジャパクサ氏は無謀とも言える減税を行い財政をさらに圧迫。一方で憲法を改正し、首相や閣僚の任命・解任を自由に行えるようにするなど独裁色を強めた。

 外貨準備高は昨年後半の時点で「輸入1カ月分」の水準にまで減少。輸入に頼っていたガソリンなどの燃料が枯渇し、人々はまきによる調理や車から自転車に乗り換えての生活を強いられた。今年6月のインフレ率は前年同月比54.6%にまで上昇。コロンボ近郊で日本人向け旅行会社を営む男性(58)は電話取材に対し、パンや卵の価格は「1年前の3倍になった」と話す。一方で収入は上がらないため低所得層の人々が満足に食事を取れない状況に陥っているという。男性は「外貨が無くなるとはこういうことか」と、嘆いた。

 スリランカは、途上国に債務を負わせて支配を強める中国の「債務のわな」にはまった典型例との見方もされる。危機に陥って以降、スリランカが期待するほどの支援を中国から得られてはいない。

前政権と決別か継続か

 後任の大統領には国会議員による投票でベテラン政治家のウィクラマシンハ氏が就いた。ロイター通信などによると、同氏は記者団に対し「私はラジャパクサ家の友人ではなく、国民の友人だ」と強調。前大統領一族と距離を置く姿勢を鮮明にした。

 その一方、就任宣誓翌日の22日には前大統領一族と近いとされる人物を新首相に任命。他に任命した17人の閣僚の多くは前政権からの留任だった。本格的な挙国一致内閣をつくる前の暫定的な内閣との見方もあるが、国民の怒りが再び高まる恐れもある。現地で取材する隣国インドメディアの関係者は「人々は政治体制への信頼を失っており、ウィクラマシンハ氏はラジャパクサ政権の継続と見なされている」と語る。

 22日未明には治安部隊が大統領府近くにいたデモ隊を強制的に排除。衝突により50人以上が負傷した。

 これまでと同様に自ら財政政策を主導すると伝えられるウィクラマシンハ氏。混乱を収束させ、経済危機を乗り越えることができるかはまだ見通せない。(2022年7月28日掲載)

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