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台湾クライシス 有事の可能性はどこまで高まっているのか?

2021年12月31日

【第1回】中国軍の侵攻に備えよ

 2021年は中国軍が台湾に侵攻する可能性が現実味を持って論じられた年だった。3月に米軍のデービッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)が上院軍事委員会公聴会で、台湾情勢について「6年以内に危機が明らかになる」と言及した。27年は中国軍創立100年に当たり、習近平共産党総書記(国家主席)の3期目の任期が終わる政治的な節目の年だ。

 21年7月の共産党創立100年式典で習氏は「祖国統一は党の歴史的任務だ」と表明した。11月には共産党が過去の歴史を総括する「歴史決議」を採択。これにより、建国の父である毛沢東、改革開放政策を主導した鄧小平と並ぶ権威を手に入れた習氏が終身一強体制を維持する可能性も出てきた。習氏が「歴史的指導者」にふさわしい実績を確立するため、「台湾統一」を目指しているという見方は強い。

 中国軍の兵器開発も急ピッチで進んでいる。米軍も開発できていない、空母を攻撃可能な弾道ミサイル「東風26」「東風21D」に加え、極超音速ミサイル「東風17」をすでに実戦配備したと中国軍は主張している。3隻目の空母は2022年前半に進水する見通しだ。上陸作戦の中核を担う海軍陸戦隊(海兵隊)は17年に組織改編が始まり当初の1万人から3倍以上に拡大したとも言われる。推定排水量4万トンで米軍のワスプ級に匹敵するとされる強襲揚陸艦「075型」は1隻目が21年4月に就役し、11月に3隻目が試験航海を始めたと伝えられている。人工知能(AI)と連動した無人機の運用を目指す動きも進んでいるもようだ。

 この状況で、台湾海峡周辺での軍事バランスは中国に有利に傾いていると分析されている。デービッドソン氏は2025年に中国軍は空母3隻、強襲揚陸艦6隻を保有するという予想を明らかにしている。同じ時期、米軍は中国周辺で空母1隻、強襲揚陸艦2隻にとどまるという。米議会諮問機関、米中経済安全保障調査委員会は21年11月、「中国軍は台湾に侵攻する初期段階の能力を持っているか、獲得しつつある」という報告書を公表した。

 ただ、現時点では米軍の介入を排除して、台湾に大規模な上陸作戦を実行する能力を中国軍が持っているとは言いがたい。中国軍は1979年の中越戦争以降、本格的な実戦を経験していない。空母や陸戦隊の運用経験も乏しい。中国軍の新兵器に関しては、多くの専門家が性能を疑っている。

 台湾有事が起きれば、隣国であり在日米軍基地が存在する日本は当事国とならざるを得ないだろう。危機はどこまで差し迫っているのか、3回シリーズで検証する。第1回は香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)に現状を分析してもらい、日本はどのように備えるべきなのか聞いた。(時事通信外信部デスク・前中国総局特派員 北條稔)

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