ロシアとしては、ジョージア紛争でレッドラインを示したはずだった。ところが、2014年にウクライナで反政権デモの結果、親欧米政権が誕生する。欧州連合(EU)だけでなく、NATOへの加盟も目指しかねないという懸念がロシア側で強まり、プーチン政権は先手を打つようにロシア軍が駐留するウクライナ南部クリミア半島を制圧。NATO入りどころではなくなるよう、東部を紛争地化した。
ただ、ウクライナ側でよく言われるように「ロシアはクリミアを得たが、ウクライナを永遠に失った」。軍事介入の結果、親欧米から親ロシアに政権交代する可能性がほぼなくなったウクライナは、NATOとの軍事演習に積極的だ。また、2015年のミンスク停戦合意を完全に履行せず、米国製の対戦車ミサイルやトルコ製ドローンの調達を進めている。ロシアが軍事演習「ザーパド(西方)2021」を利用して軍部隊を集結させてウクライナを威圧するのには、こうした背景がある。
折しも、旧ソ連で同じスラブ系のベラルーシでは2020年8月、大統領選不正疑惑を機に反政権デモが勃発。ロシアの支援もあって政権崩壊は免れたものの、民意が親欧米に傾けば、いずれNATO加盟に向かう可能性もゼロではない。今こそ、欧米との手打ちが必要なわけだ。間接的ではあるが、ベラルーシからEUに中東出身者が送り込まれた移民危機も、欧米けん制の文脈で関連しているとみられる。
欲しいのは法的保証
12月7日の会談で、ウクライナ情勢の緊張緩和を迫るバイデン大統領に対し、プーチン大統領はNATOが東方に拡大しない「法的な保証」を要求した。
口約束ではNATOがロシア国境に迫ってしまうという危機感があるためだが、クリアすべきハードルはもちろん高い。門前払いとせず、本気で検討してもらわないと困るという米側へのメッセージを込め、10万人規模のロシア軍部隊をウクライナ近くに集結させたというのが実情のようだ。さすがにロシアも、2014年のように「ロシア系住民の保護」といった大義名分がなければ、軍事侵攻はしづらい。
オンライン会談と前後して、バイデン大統領は欧州主要国首脳との電話会談を実施。ロシアに制裁を含めて断固とした対応を取る上で足並みをそろえるとともに、NATOの不拡大に関するロシアの要求をどう取り扱うか、話し合ったとみられる。しかし、東欧諸国は加盟できて、なぜウクライナは駄目なのか。NATOは「自らの道を決めるという欧州の全国家が持つ権利について、譲歩はしない」(ストルテンベルグ事務総長)との立場で、早くもロシアの提案に難色を示した。
プーチン大統領の発想からすれば、法的な保証に向けた欧米の具体的行動がない限り、ウクライナをめぐる緊張は繰り返されることになる。先進7カ国(G7)の一員として一致した対応を求められる日本も、決してひとごとではない。(2021年12月14日配信)
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