2021年12月10日
タレントから政治家に転身する例は少なくない。現職の国会議員では自民党の三原じゅん子参院議員、立憲民主党の蓮舫参院議員、れいわ新選組の山本太郎代表らがいる。選挙で知名度は強力な武器になることから、各政党から声が掛かることもしばしばだ。
女性ボーカルグループ「SPEED」で一世を風靡(ふうび)した自民党の今井絵理子参院議員(38)=当選1回=もその一人。生まれつき耳が聞こえない長男・礼夢(らいむ)さんを育てながら音楽活動を続け、2016年に政界入りした。国会議員に転身する経緯や力を入れて取り組んでいる聴覚障害者政策について聞いた。(時事通信政治部 栗原ゆり)
―5年前、政界入りしたきっかけは。
まさかですよね、SPEEDが政治家になるなんて。
息子が生後3日目にして耳が聞こえないことが分かり、初めて「障害」と向き合うことになった。テレビ番組で公表した後、SNS(インターネット交流サイト)などを通じて「自分も実は障害がある。でも周りに言えない」との声がたくさん寄せられた。そうした子どもたちに元気を届けることができたらと思い、息子とともに障害者施設や児童養護施設を訪問する活動を、国会議員になるまで約10年続けた。
その中で現参院議長の山東昭子議員と会う機会があり、「政治家にならないか」と声を掛けられた。政治に関心があったわけではなく、当時は子育てと仕事でいっぱいいっぱいだったが、山東氏から「一芸能人が障害者政策を訴えるより、政治の世界で実現したい政策に取り組んでみては」と言われ、決意した。
―当時の礼夢さんやSPEEDのメンバーの反応は。
息子に「歌手と政治家、どちらがいいと思うか」と相談したところ、「手話をもっと広めてほしい」と言われた。SPEEDのメンバーは今も仲良しで、政治家になると言ったときは驚きはしたけれど、「応援する」と言ってくれて本当にありがたかった。
参院本会議で史上初の手話質疑
―政治家に転身後、戸惑いは。
政治家がどんな活動や仕事をしているのか分からず政界に入った。先輩議員が朝から晩まで議論と勉強をしている姿を直接見て、そこから学んだ。
―昨年11月に参院本会議で初となる手話を用いての質疑をした。
本会議や委員会のインターネット中継はあるが、字幕も手話通訳もなく、聞こえない人たちにとっては何を議論しているか分からない状況だった。
質問に立つと決まったとき、手話で行いたいと申し入れた。過去に手話を併用した質疑はなく、慣例を非常に大事にする国会という場でありながら、与野党ともに認めてもらったことに感謝している。一歩歩みが進められたような、忘れられない日になった。
―今年1月に参院の国会審議のネット中継に手話通訳が導入された。
障害の有無にかかわらず、全ての人に情報は保障されるべきだ。そうした取り組みを国会でも一層加速させていきたい。今は本会議だけだが、いずれ委員会審議にも導入したい。
―手話通訳ができる参院の衛視が今年度末までに20人に増える。
多くの議員の尽力のおかげだ。聞こえない方々に国会見学をしてもらい、国会議事堂を身近に感じてもらえるきっかけになればいい。
―聴覚障害者を事務所の秘書として採用した。
政府が障害者雇用の促進に向け、企業等に協力をお願いしている中で、私自身も取り組みたいとの思いから、今年1月にろう者を秘書に迎えた。聞こえない方にとって視覚の情報はとても重要なため、事務所全体を見渡せるところにデスクを配置したり、会議では音声を即座に文字変換するアプリ「UDトーク」を使ったりするなど、さまざまな工夫をしながら職場環境づくりをしている。
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