会員限定記事会員限定記事

サウナ、その魅力と効果は? 「おじさんの聖地」に変化あり

2021年11月21日11時00分

加藤容崇・日本サウナ学会代表理事

 サウナが人気だ。「サウナ→水風呂→休憩」を繰り返すことで得られるという独特の感覚「ととのう」を求めたブームはとどまるところを知らず、性別や世代を超えて浸透。川辺や湖畔に専用テントを張り、内部をまきストーブなどで温めて楽しむアウトドア派も増えている。ブームの背景やサウナの効果、正しい入り方について、医師で日本サウナ学会代表理事の加藤容崇・慶応大医学部特任助教に教えを請うた。

 【特集】教えていただきました

◇「眉唾ワールド」からの脱出

 サウナは従来の「おじさんのディズニーランド」のイメージから新たなものへ生まれ変わりつつあります。キーワードは「健康・ウェルネス」「若者・女性」、そして「地方創生」。今までのイメージと全く違うこのワード。なぜこのようなことになっているのでしょうか。

 世の中の健康・ウェルネスに関する情報は「なんちゃってエビデンス」にまみれていて、一見信用できそうに見えても、専門家から見ると眉唾モノが大部分。「効くと思えば何となく効く気がする」というような、スピリチュアルなうさんくさい領域です。サウナもこの「眉唾ワールド」の住民でしたが、偶然の政治的な情勢がサウナを進歩させました。

 それはサウナの母国フィンランドから。医療インフラが乏しく、慢性疾患対策が迫られる状況だったフィンランドは1960年代にF M C F(Finnish Mobile Clinic Follow-up Survey)と呼ばれる移動式の健康診断システムを作り、国を挙げて大規模健康データ収集を開始。調査は2013年まで続きました。そこはフィンランド。データには当然サウナに関するもの含まれており、2013年以降、非常に貴重な大規模・長期間にわたるサウナ健康データが続々と報告され、眉唾ワールドから急速に脱出しました。

◇健康効果は大きく三つ

 サウナは適切な入り方をすれば健康にとてもよいです。具体的には、どう健康によいのか。「なんちゃって健康効果」ではない、サウナで本当にリスクが減る病気は、大きく分けて三つあります。

 まず、心筋梗塞のリスクが約50%減少します。サウナ効果で血流が増し、物理的に血管が伸ばされて柔らかくなることで心臓の負担が長期的に軽減されるためです。血管の屈伸運動のようなものです。

 二つ目は認知症のリスクが約65%減少すること。これはサウナによって睡眠が大きく改善するためと考えられます。睡眠中、特に深い睡眠の間に認知症の原因となる物質が脳内から洗い流されるとの報告があります。サウナによって約75%もの人の睡眠改善効果が得られたとも報告されています。サウナに入ってぐっすり眠ることが認知症予防になるというわけです。

 三つ目は、うつ病や統合失調症などの精神疾患のリスクが約75%低減するということ。今のところ因果関係は不明ですが、軽度の抑うつ状態(うつ病の初期状態)の被験者を対象とした研究では、主観的な症状が改善し、食欲が改善したと報告されました。

 この論文にはオチがあり、食欲が回復した結果、総摂取カロリーが増加して太ってしまったそうです(笑)。サウナ後は特にご飯がおいしいので、カロリーが低く風味が豊かな旬のものを食べるとよいですね。

◇ゾーンに入った状態「ととのう」

 いま、サウナに入った後に現れる独特の感覚「ととのう」が話題になり、多くの若者がサウナを訪れ、施設によっては「レディースデー」を実施するところも出てきました。性別や年齢を問わずサウナ好きを魅了する「ととのう」を医学的に言うと「急激な温冷刺激による特別な感覚」です。「ととのう」を理解するにはまずは、基本的なサウナの入り方を理解する必要があります。

 サウナ浴の基本は、サウナ室→水風呂→休憩、を1セットとして3セット行うことです。

 サウナの熱さや水風呂の冷たさは、日常ではあり得ない過酷な環境です。人体はこれを感知すると生命が危機的状況にさらされていると判断。自律神経のうち、心身を発奮させる交感神経が活性化します。水風呂の後に休憩を取ったところで、人体は危機を脱したと感じ、ホッとした時に働く副交感神経が活性化。通常では得難いほど全身が深くリラックスしていきます。

 ここで「ととのう」が訪れます。水風呂から出た2分間、体内は「あり得ない状態」にあります。自律神経はリラックスしているにもかかわらず、血中にはアドレナリンという興奮物質が残っており、リラックスと興奮が体内で併存しているのです。結果、深くリラックスしているが頭がスッキリしているという、アスリートでいう「ゾーンに入っている」ような恍惚(こうこつ)感を感じる状態になります。これが「ととのう」という特別な感覚の原因と考えられます。

教えていただきました バックナンバー

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ