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投票先、どう決めた? 芸人パックンが見た衆院選

2021年11月03日10時00分

 日本で税金を納めているものの、日本国籍を持たない280万人超の在留外国人に投票権はない。米コロラド州出身のお笑い芸人「パックン」として知られるパトリック・ハーランさん(50)も、その一人だ。戦後3番目の低投票率となった衆院選。来日25年以上になるハーランさんに日本の選挙制度や有権者に伝えたい思いを聞いた。(時事通信社会部 小山貴央)

 【特集】社会コーナー

 ―来日してから、これまで日本の選挙をどのように見詰めていましたか。

 もどかしく感じていました。今年9月に実施された政権与党、自民党の総裁選は実質的には内閣総理大臣を決めるものでした。でも、投票できるのは党員・党友に限られていて、国のトップを国民全員で決められない制度になっています。一方、米国の大統領選は直接投票することができ、国民の間に「私たちの政権」という意識が強く働いています。日本では「私たちの政権」「私たちの○○党」という認識が薄いのではないでしょうか。米国と比べて政治への「関わり度」が低いと思います。

 選挙制度の問題点の一つとして、知名度に左右されやすいことが挙げられます。米国では2年近く選挙運動をしますが、衆院選は公示から投開票までが短期間で、前職やタレント出身といった既に有名な候補者が圧倒的に有利です。

 衆院選で不思議に思ったのは、「保守」を掲げる与党が「リベラル」な野党の政策を取り入れていたことです。「格差社会の是正」「子育て世帯への住居費・教育費支援」など、これまで野党が主張してきた政策を公約に取り込んだ。野党が訴えてきた現金給付についても、公明党が公約に「18歳以下への一律10万円相当支援」と明記しました。与党が変化していけるという特徴が日本型民主主義にはあると思います。

 ―投票率についてはどう見ていますか。

 実は米国と日本の投票率には大差がなく、米国も低いです。出身地のコロラド州は郵送かオンラインでの投票が可能で、私は毎回在外投票しています。日本でもオンライン投票は導入できると思いますし、コンビニや郵便局といった立ち寄りやすい場所で投票できるようにすれば、投票率は上向くかもしれません。投票率9割のオーストラリアのように、投票しない有権者に2000円程度の罰金を設けるのも効果的かもしれません。

 ―インターネット交流サイト(SNS)では、外国人への誹謗(ひぼう)中傷など、いまだに排外主義的な意見が散見されます。25年以上の日本での生活で生きづらさや困難さを感じたことはありますか。

 SNS上の中傷を見ていると、反射的に批判している投稿が多いように思います。でも、そういう投稿をする人たちも、現実社会の中で直接同じ言葉を掛けることはないでしょう。「(被害者に)気にする必要はないよ」と言いたいです。

 生活をしていて、賃貸物件が借りにくかったりローンが組みにくかったりすることはありました。会社での出世や転職が困難な人もいるでしょう。それでも私は、日本人は基本的にみんな外国人に優しいと感じていて、他国で住む外国人より暮らしやすい環境にあると考えています。

 ―在留外国人の立場から、有権者に伝えたいことはありますか。

 子どもたちには選挙権がありません。でも、日本の将来を担う子どもたちにすくすくと育ってほしいと思い、子育て支援や教育政策について考える人は多いでしょう。外国人のことも同じように考えてみてください。私の自宅近くのコンビニ店員さんは8割が外国人労働者です。私は彼らのおかげでいつも買い物ができているので感謝しています。彼らがより暮らしやすくなるにはどうしたらいいか。それを考えることは、回り回って、暮らしやすい社会につながります。まず第一は自分自身の生活だと思いますが、子どもをはじめ、在留外国人や寝たきりの人など、選挙に行けない人にも思いをはせて投票先を決めてもよいのではないでしょうか。

パトリック・ハーラン 1970年米コロラド州生まれ。93年にハーバード大比較宗教学部を卒業し、来日。芸人、東京工業大非常勤講師。NHKの教養番組「英語でしゃべらナイト」で人気を博し、現在はテレビ番組の司会やコメンテーターも務める。近著に「逆境力」「ハーバード流『聞く』技術」「『日本バイアス』を外せ!」。

(2021年11月3日掲載)

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