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猫腎臓病治療薬に寄付殺到、愛猫家の熱意受け、開発再開へ 作家・瀬名秀明氏と宮崎徹・東大大学院教授が対談

2021年11月29日

本来は起こらないはずの「慢性炎症」

瀬名:AIMは、体の中のゴミを認識してくっつき、一方では異物を食べて掃除するマクロファージを引き付けて食べさせるという仲介役を担っているということになりますよね。

宮崎:その通りです。

瀬名:腎臓はゴミがたまると病気になりやすい臓器だと考えていいのでしょうか。

宮崎:猫の場合は特にそうです。血液から老廃物をこして尿にするネフロンというろ過装置の中にある、尿細管という尿の通り道に当たる部分にゴミが詰まることで(病気が)スタートします。ちょうどトイレの排水管が詰まるようなものですから、そこから炎症を起こして、そのネフロンは壊れていきます。それが継続的に続くと、腎臓全体がだんだん壊れていくことになります。
 昔の教科書では炎症とは急性のもので、慢性はないという定義になっていましたが、十数年前から慢性的に持続する炎症の研究がブームになって、肥満や糖尿病も結局は炎症が疾患の基礎になっているとも言われるようになりました。そして、慢性炎症の主役の一つは、本来は細胞の中で働いていたたんぱく質が、細胞が死んだことで外にぶちまけられてゴミになったものだと分かってきました。

AIMはマイナス荷電のアミノ酸と結合

宮崎:そうしたゴミがどんな特徴を持っているかというと、正常な細胞やたんぱく質はマイナスに荷電したアミノ酸が表面に出てこないような形状をしているのに対し、死んだ細胞やそこから放出されたたんぱく質では、そうしたマイナスに荷電した部分が表に出てきてしまいます。AIMは、そのマイナス荷電の分子やアミノ酸に特異的に結合するのです。

瀬名:(細胞が)壊れたことを直接認識しているのではなく、壊れた中から出てくる物質を認識するというわけですね。

宮崎:そうです。10月に脳梗塞についての論文を発表したところですが、脳梗塞で血管が詰まると脳細胞が壊死(えし)します。死んだ細胞が壊れると、中身がばあっと出てきます。そうしたゴミをDAMPsと言いますが、AIMがそこにあると、きれいに片付けてくれます。その結果、脳梗塞で脳細胞が死んでも炎症が広がらないので、それ以上(脳組織の破壊が)広がりません。だから脳梗塞が起こった後にAIMを投与しますと、死亡率や(まひなどの)神経症状を顕著に抑えて、予後が格段に良くなります。

瀬名:実は、うちの母と妹が飼っていた猫は脳腫瘍で亡くなったのですが、そういう腫瘍の進展を抑えるという意味でも、使えるのではないかという気がしてきました。脳にはどうやってAIMを投与されるのですか?

宮崎:これについては先生ならご存じだと思いますが、脳の血管には「脳血流関門」というバリアーがあり、AIMも含め多くのたんぱく質は脳の血管から脳組織に移動できないようになっています。しかし脳梗塞の場合、この関門も一時的に壊れてしまいますので、AIMを血管から注射して脳に届かせることができるのです。しかし、普通の脳腫瘍であるとかアルツハイマー型認知症などの場合、AIMを静脈注射してもおそらく(脳には)届きません。マウスの場合は、直接脳に入れることもできますが、人間の場合は…。

瀬名:猫ならいけるかもしれませんね。

宮崎:はい。できるかもしれません。

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