動物の血液に高濃度で存在するタンパク質「AIM」の機能を解明し、猫の腎臓病治療薬を開発した東大大学院医学系研究科疾患生命工学センターの宮崎徹教授と、東北大大学院薬学研究科在学中に小説「パラサイト・イヴ」で作家デビューした瀬名秀明氏が対談、猫と人間の医療、科学の将来について熱く語り合った。
猫腎臓病治療薬研究に異例の寄付
瀬名:ご著書の「猫が30歳まで生きる日」、とても楽しく拝読しました。科学書としては異例の売れ行きだということですが、一方で先生の研究に異例な形で寄付が集まっていることもうかがっております。まずは、それについてのご感想を聞かせてください。
宮崎:寄付については、本当に予期していなかったことで、少々困惑しているほどです。実を言いますと、私は科学研究に一般の方から寄付をいただくことに、かなり抵抗感がありました。
瀬名:なぜでしょう?
宮崎:私たちのような薬を作る研究ですと、いつまでに(薬を)完成させますといったお約束ができません。開発・研究には、どうしてもうまく行かない部分が出てきますから、予測がつかないのです。従って、皆さまから寄付を頂いて、そのお金で薬を作りますと言ったときに、寄付してくださった方の期待をあおりかねないという心配が出てきます。
瀬名:確かにそうですね。
宮崎:今回は本を出す前に時事通信社からインタビュー記事が配信されたのですが、その中にあった「コロナ禍のために猫の腎臓病薬の開発がストップしている」という私の発言がネット上で広まり、いわゆる「バズった」状態になりました。そこから、猫薬の開発を支援しようという動きになったようですが、そもそも私は寄付の受け入れ窓口のようなものは作っていません。
おそらく皆さん、寄付する先を探してくださったのだと思います。そのうち誰かが東大基金というものがあるのを知って、そこに宮崎徹を指定して寄付すればいいという情報が、わあっと拡散したようです。
瀬名:なるほど。
研究への新たな責任感
宮崎:実際にこれだけ多額のお金が集まると、先ほど「困惑」という言葉を使いましたが、「いったい皆さんの熱い思いのこもったこのお金をどういう姿勢で使えばいいのだろう」と悩みました。それと同時に、寄付していただいた方々のものすごい期待を知って、自分のしている仕事に改めて大きな責任を感じました。
瀬名さんも研究の世界にいらっしゃったので実感されていたのではないかと思いますが、研究者の仕事は学会での発表や論文によって評価されますから、一般の方の期待や評価、ましてや熱意のようなものを感じることは普通ありません。それが今回の出来事で、自分たちの研究成果がいかに多くの人に待たれているかを肌で感じました。
そうなると、私たち研究者自身が、一般の方々にもっとコミットして、皆さんの求めているものを、創薬や臨床応用だけではなくて、医学の基礎的研究にも反映させる必要があるのではないか、そのように実感したということです。
瀬名:寄付が集まったことによって、研究者としてのモチベーションを改めて感じたということでしょうか。
宮崎:その通りです。
瀬名:山中伸弥先生がiPS細胞のためにクラウドファンディングでお金を集め、細胞バンクを作るといった活動をされていますが、寄付する方には自分の家族や知り合いを(iPS細胞で)救いたいという強い思いがあると思います。でも、今回は猫のための薬です。
宮崎:本当にびっくりしました。猫好きの方々の思いは、実に熱いものです。
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