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出口クリスタ、再起への決意 パリ五輪へ立ち上がる柔道家

コロナ下で逆風、無念の代表落ち

 柔道女子57キロ級の出口クリスタ(26)=日本生命=が、再起へと踏み出す。カナダ出身の父と日本人の母を持ち、東京五輪のカナダ代表入りを目指したが、かなわなかった。2019年の世界選手権覇者。金メダルを狙える実力を持ちながら、新型コロナウイルスの影響で代表選考方式が急きょ変更されたことが逆風にもなり、大舞台に一歩届かなかった。無念の思い。そして、もう一度立ち上がって3年後の24年パリ五輪を目指す―。そんな決意を本人が語った。(時事通信運動部 岩尾哲大)

◇ ◇ ◇

 出口は長野・松商学園高時代から、日本代表としてシニアの国際大会で活躍。その後伸び悩んだ側面もあり、父の母国カナダの代表で東京五輪出場を目指すことを決断した。代表となる国を変更すると、日本選手として出場した最後の試合から3年間、国際大会に出られない。それを経て、17年10月からカナダ選手として臨めるようになった。

 当初は思うような結果を残せなかったが、「壁を感じない」という代表チームの雰囲気が合い、次第に潜在能力が開花。世界選手権は18年に銅メダル。19年には同い年でジュニア時代からしのぎを削ってきた日本の芳田司(コマツ)を決勝で破り、世界一に輝いた。20年春に五輪の延期が決まっても「特にモチベーションに変化はなかった」と、母校の山梨学院大を拠点に稽古を続けた。21年4月初旬のグランドスラム(GS)アンタルヤ大会(トルコ)で優勝。東京五輪への歩みは順調だった。

突然の選考方式変更

 女子57キロ級のカナダ代表争いでは、当時世界ランキング1位の出口に対し、2位のジェシカ・クリムカイトがライバル。もともとは5月に両選手による3番勝負をカナダで実施し、代表を決める予定だった。国際大会での対戦成績は直近のGSアンタルヤ大会を含め出口の6戦全勝。この方式では出口有利との見方ができた。

 しかし、4月下旬になってカナダ連盟が方式の変更を発表。6月の世界選手権(ブダペスト)の上位者を代表とするという内容だった。発表前、カナダ連盟幹部から出口とクリムカイトにオンラインで説明があったという。変更の理由は新型コロナ。出口がカナダで試合をする場合、到着後2週間の隔離が必要となる。幹部は「それではフェアではない。世界選手権で決める方が、お互い同じような条件で戦えるのではないか」と話したそうだ。

 カナダは世界の中でもコロナ禍における往来に厳しい制限を設けている国の一つ。出口も、事情を理解できなかったわけではない。だが、すぐに納得することもできなかった。自分が対戦成績で勝っているとはいえ、油断なくライバルとの大勝負をイメージし続けてきた。「それ(隔離)に順応するしかないので、腹をくくったつもりだった」。日本からコーチが同行できなくても、戦う心構えも持っていた。「それはフェアなようでフェアではない」という出口側の主張は認められなかった。

大きかったプレッシャー

 6月の世界選手権。出口にとって本来は出場を予定していなかった大会だった。同選手権への調整は「もうやるしかない」と思っていた。それでも、今思い起こせば「いつも通りにはできていなかったのかな」。試合当日。「いつもより切れが悪かった。選手生命というほどではないが、大きなものが懸かっている試合は今まであまり経験してこなかった。プレッシャーはすごかった」と率直に思い起こす。

 そんな中でも3試合を勝ち上がり、準決勝に進んだ。クリムカイトは既に決勝進出を決めていた。迎える準決勝は、直接対決で五輪切符を勝ち取るために、何としても勝たなければならない試合だった。

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