父親が3カ月も休業?
「育児休業を3カ月ですか? 可能かどうか確認させてください」
「法的には可能ですよ」
ドイツ人の夫は、勤めている会社の人事部の担当者を前にして強気に出た。
その結果、娘が9カ月になった頃、夫は3カ月間、育児に専念した。初めは「休暇」だと期待していたが、長寝できる日は一度もなかった。今日(2021年11月時点)、娘は3歳9カ月。夫はあの時の休業を後悔したことは一度もない、と振り返る。
実は私の夫のように3カ月「も」育児休業する父親はドイツでは珍しくない。2020年に日本の小泉進次郎環境相(当時)が2週間「だけ」の休みを発表したニュースに比べると、ドイツの状況を褒めるべきなのか…。この記事では共働き世帯に焦点を合わせ、制度上かつ社会的な側面からドイツの父親たちがどの程度「育メン」なのかを考えていきたい。
日独の育児休業制度の違い
ドイツでは会社員である場合、父母合わせて最大36カ月の育児休業が認められている。子供が3歳になるまで一度に消化しても良し、勤務先の承諾があれば期間を分けて数回休むこともできる。また、これも要相談だが、子供が3歳から8歳の間に(通算36カ月に収まれば)最長で連続12カ月の休業を申請することも可能。日本の場合、子供が1歳(特例で2歳)になるまでしか適用されないので、ドイツの方が使い勝手がいいと言えるだろう。
ドイツで育児休業が認められる期間は長いが、実際36カ月間も仕事を休む親はまれだ。そもそも育児休業給付金の支給期間は14カ月に限られている。しかも、これは父母がともに育児休業を取得した場合の合計で、父母のどちらかが1人で取得する場合は12カ月に短縮される(一人親家庭は14カ月)。金額は月に最低300ユーロ(約4万円。11月11日のレートで換算)から最高1800ユーロ(約23万円)の範囲内で、原則として手取り賃金の65%が毎月の支給額になる。また、休業前に収入がなかった場合(失業中や学生・主婦で無収入だった人も含まれる)は最低額が支給される。
他には「育児休業給付金プラス」(Elterngeld Plus)というモデルがあり、毎月の給付金支給額を減らす代わりにパートタイム勤務を許可する制度がある。親になる人にとってはどのくらい休みたいか、どんな休業方法が経済的なのか熟考が求められる。なお、日本では休業開始から6カ月間は賃金の67%、6カ月経過した後は子供が1歳になるまで(特例で2歳まで)50%支給される。
現在のドイツの育児休業制度は07年に成立したものだ。それ以前の制度は給付金の支給が低所得者に限られていたほか、親のどちらかしか申請できないなどの欠点があった。果てに新生児の父親の育児休業取得率はたったの3%。新制度導入のおかげで、今では3分の1の父親が給付金を利用して育児休業を取得している(ドイツ統計局調べ)。日本の父親の育休取得率は20年度時点で12.7%と、前年度の7.5%から伸びたとは言えまだ低く(数字は厚生労働省雇用均等基本調査)、ここまで読むとドイツの家族社会に好印象を抱く人が多いかと思う。
だが、私がこの記事で問題にしたいのは取得率そのものではなく、取得期間の差だ。母親は平均11.6カ月。父親は3.1カ月。コロナ危機によるロックダウンが行われた20年にも育児休業給付金を得た期間は父親が3.7カ月、母親が14.5カ月(ドイツ統計局調べ)と、全体的に育児に充てる時間は増えたものの、ジェンダーギャップを埋めるまでには至っていない。
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