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「今はシューベルトが弾きたい」と解放感 小林愛実さん、ショパン国際ピアノコンクールを語る

2021年11月16日12時00分

音楽評論家・道下京子

 小林愛実さんは、幼い頃から国内外で幅広く演奏活動を行ない、14歳でCDデビューを果たした。2015年にショパン国際ピアノコンクールに初めて出場し、日本人で唯一ファイナルまで進んだ。そして、今年10月に開催された同コンクールで第4位に入賞。小林さんがポーランド・ワルシャワから帰国後の11月10日、オンラインでインタビューした。

角野隼斗さん、ショパン国際ピアノコンクールを語る

“勝負菓子”は不二家の「LOOK」

―第4位入賞おめでとうございます。

 ありがとうございます。第4位に入賞できたことを、純粋にうれしく思っています。

―小林さんは、前回のショパン・コンクールもファイナルまで残っていました。今回、もう一度このコンクールに挑んだ理由を教えていただけますか?

 ショパン・コンクールだけをコンクールとして考えているわけではなく、国際コンクールに出場しようと考えた時、その中でいくつかピックアップして、一番早く訪れた国際コンクールがショパン・コンクールだったのです。結果的に、ショパン・コンクールを2回受けることになり、リベンジに見えてしまうかもしれませんが、そういうわけではないのです。

―このコンクールでは、YouTubeで演奏前後の舞台裏の様子なども映されています。第1次予選を視聴している時に気付いたのですが、演奏前に小林さんはなにかお菓子を召し上がっていましたね(笑)。

 (不二家の)「LOOK」のチョコレートです(笑)。

―勝負飯ならぬ、勝負おやつですか?

 チョコレートでしたら、どのチョコレートでも良いのです。一番うまく弾けた時に食べていたのが、LOOKのチョコレートだったのです。ポーランドでは用意できないかもしれないと思い、日本から持参しました。このコンクールには、四つのラウンドがあるので、一応四つ用意していきました。

―小林さんのすべてのラウンドを聴きました。特に強烈に印象に残っているのは、第3次予選の《24のプレリュード》です。選択の余地として、《ピアノ・ソナタ》の第2番と第3番もあったのではないかと思いますが…。

 今回の第3次予選までのプログラムについては、前回のコンクールのレパートリーから変えたいと思っていました。

 そうすると、前回は《ピアノ・ソナタ第2番》を弾いたので、今回演奏するレパートリーの選択肢としては《24のプレリュード》か《ピアノ・ソナタ第3番》が候補に上がってきます。その2曲のなかでは、《24のプレリュード》の方が自分を表現しやすいと言いますか、自分に合っている作風だと感じていました。

―《24のプレリュード》を最初に弾いたのはいつ頃ですか?

 2016年に演奏しました。演奏会があり、弾いてみようと取り組みました。ちょうど、チョ・ソンジンさん(優勝)やエリック・ルーさん(第4位)が2015年のショパン・コンクールで演奏していたのです。

精神的にも体力的にもきつかった第2次予選

―小林さんの演奏に入っていく集中の度合いは、他に類を見ないように思いました。

 あの舞台には、やはり何かいます(笑)。とても独特なのです。2015年にも弾いていますが、あのホールで弾くからとても緊張するのだと思っていました。コンクール後のガラ・コンサートも同じ場所でありましたが、普段の演奏会と同じような、いつもの緊張感でした。やはり、これはコンクールだからなんだと! コンクールでは、階段を上って舞台へ出ていきますが、その道のりがとても長く感じられました。

 やはり、とても緊張したというのが感想の一つです。

―フィルハーモニー・ホールの舞台に立った時の心境を教えてください。

 ステージごとに心境は違いました。第1次予選では、椅子の高さのことで一度舞台から戻ってしまいました。その後、椅子を替えていただきましたが、結局は最初に置かれていた椅子で演奏に挑みました。そして、お客さまをお待たせしているのに、再び舞台から離れて集中し直すわけにはいきません。「早く弾かなければ」と、別のプレッシャーにとらわれてしまいました。そのような気持ちのまま演奏し始めたので、ふわふわしながら「あぁ、いま、弾いているのか…ショパン・コンクールなのか」と。どうにか集中しようと必死でした。

 でも実は、第2次予選が一番大変でした。演奏するすべての曲が新たなレパートリーで、その上ボリューミーでした。第1次予選を通過し、今は第2次予選だけれど、その次には第3次予選もある…精神的にも体力的にも、第2次予選はきつかった。

 第3次予選は、5年前に演奏した《24のプレリュード》。レコーディングも経験しましたし、どこかで自信があったのかもしれません。第3次予選が最後の(ソロの)ステージですので、あの舞台でお客様の前で演奏できることは、ピアニストとしてとても貴重なことなのです。その舞台を、楽しみたいと思っていましたし、自分の中では達成できたものを感じました。

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