個性豊かな日本ハムの新監督
球界やファンに強烈なインパクトを与えた。プロ野球のパ・リーグで3年連続5位と低迷中の日本ハムに、個性豊かな新監督が登場。2004年から3年間在籍した球団OBの新庄剛志氏(49)だ。現役時代は高い身体能力を生かしたプレーだけでなく、ファンを楽しませるパフォーマンスも目を引いたスター選手だった。11月4日の就任記者会見では、自ら「監督ではなく『BIG BOSS(ビッグボス)』と呼んで」と宣言。その後は、沖縄県国頭村(くにがみそん)で若手選手を中心に行われた秋季キャンプを視察。その3日間が、ビッグボスの初仕事となった。(時事通信札幌支社編集部 嶋岡蒼)
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視察初日、11月8日の朝。新庄新監督が上下赤色のジャージー姿、サングラス着用で球場に現れた。報道陣を前に「まずは選手の身体能力というか、足のスピードと肩の強さをチェックする」とテーマを説明した。
手始めは、肩の強さを確認するための遠投から。グラウンドのダイヤモンド内、本塁と三塁の間に白いワゴン車が停車。すると新監督は車上に立って、右手に握ったノックバットを水平にしてラインを示した。「これより低く」と。選手の遠投が始まってからは、チームスタッフが車上に立ち、棒を使って送球の目安となる高さを設定した。
単純明快な「低く、強い送球」
極めてユニークな光景だが、そのやり方は、現役時代に強肩と広い守備範囲の外野手でゴールデングラブ賞10度という名手だった新監督ならではの発案だろう。単に遠くに投げる力ではなく、いかに低く、強い送球ができるかをテストした。
「あれ以上、上に投げても意味がない。試合で使いますか? 高い球は使わないでしょ」。単純明快で分かりやすく、理にかなっている。遠くに投げる意識が強過ぎて体が開き、シュート回転の送球になった選手について言及。「さあ遠くに投げようと思った時は、フォームへの意識がなくなった投げ方になる」。鋭く目を光らせた。
こだわりの走塁チェック
続いて約40メートルのダッシュタイムを基に、2チームに分かれてベースランニングのリレー。主に「足の回転」と「各塁を回るテクニック」をチェックした。走塁では一般的に、直角のベースターンで次の塁に向かいやすくしようと、走路を少し膨らませ、円を描くように回ることが多い。これに対し、新監督は「(現役時代に)一塁や二塁を回る時、あまり大きくは回らなかった」と言う。
トップスピードで走りつつ、膨らまないように最短距離で回るため「(各塁を)右足でガンって止めて、直線に走っていた」。左足で柔らかく塁に触れるのではなく、右足で蹴っていたという。自身の経験と今の選手のやり方の違いを知り、「みんなきょうはずっと大きく回っていた。細かいところをチェックして、教えたいポイントはインプットできた」。練習の合間にはその走塁術について、紺田敏正2軍守備走塁コーチに実演しながら伝える場面もあった。
スター育成へ、報道陣を誘導
技術面を確認するだけでなく、選手のモチベーション管理にも積極的だった。11月8日の午後。全体練習終了の後、サブグラウンドで4年目の清宮幸太郎内野手、3年目の野村佑希内野手が「特守」に励んでいた。ともに将来を嘱望されているスラッガー候補だ。ブルペンで投球を見ていた新監督が、報道陣に「ちょっとこっちに」と手招き。記者やカメラマンら大勢を引き連れ、サブグラウンドに移動した。
練習を「人に見られている状態」にして、両選手に緊張感を持たせるのが狙いだ。「人がいない時の動きと、いる時の動きって違う。捕れない打球も捕れるようになる。自分の中で盛り上がる。そういう意味でも、(報道陣に)少し協力してもらいました」
視察3日目は、メイン球場から突然、ブルペンに移動。3年目の吉田輝星投手が投球練習をしていた。秋田・金足農高のエースとして2018年夏の甲子園で準優勝。大きな注目を集めてきた右腕は「急に記者の人たちが走ってきて、一気にプレッシャーがすごくなった」。投げる吉田、見守るビッグボスに対し、シャッター音が響き渡った。「見られないよりは、見られた方が気合が入る。僕は悪い方には気にならない」と吉田。報道陣を巧みに利用した新監督の動きは、選手に好影響を及ぼしたようだ。
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