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立憲民主党、最大の弱点は「政策」にあり

2021年11月30日

元民主党政策スタッフが送る「辛口のエール」

 立憲民主党は2021年11月30日、辞任した枝野幸男代表の後継に泉健太政調会長(47)を選出した。旧民主・民進党勢力の分裂という政局の中で生まれた立民は、旧国民民主党との合併、衆院選での敗北を経て大きな転換点を迎えている。創業者である枝野氏が退いた後、新代表の下でこの党はどこへ向かうべきなのか。民主党事務局で長く政策スタッフを務めた須川清司氏(東アジア共同体研究所上級研究員)に寄稿していただいた。(時事ドットコム編集部)

◇  ◇  ◇

はじめに

 去る10月31日に投開票が行われた総選挙の結果、野党第1党の立憲民主党は議席を減らし、枝野幸男代表は代表を辞することになった。今回は〈自民党にお灸(きゅう)をすえる〉選挙になると思っていたが、菅から岸田への「看板のすげ替え」でまんまとかわされた格好だ。[1]

 日本の政治は選挙による政権交代が繰り返されて良くなる、というのが私の信念。立憲民主党が形ばかりの野党第一党にとどまらず、真に自民党に対抗しうる存在となってくれれば、現段階ではそれが政権交代への一番の近道だ。最近注目を集める日本維新の会には自民党の補完勢力となる疑いが拭えず、その政策と体質にも共感できない。本稿で敢えて立憲に辛口のエールを送る所以(ゆえん)である。

 <筆者註:私は1996年の旧民主党(いわゆる「鳩菅民主党」)創設時に事務局として同党に加わり、昨年3月までその後継政党で働いていた。民主党は2012年12月に下野した後、民進党、国民民主党と名前を変え、20年9月に解党した。現在の私は立憲民主党または国民民主党に対して「古巣」や「身内」という意識を持っていないし、いずれの党の党員でもない。また、本稿で述べる意見は私が今所属する組織とも無関係である。>

問題の核心=「立憲に魅力がない」こと

 今回の選挙の開票前に「共産党を含む野党共闘によって自民党との『1対1』の構図ができ、接戦区が増えた」とシタリ顔で解説していたマスコミは、選挙結果が出るや、「立憲が負けたのは共産党と共闘したから」とまたもやシタリ顔で述べている。だが、この議論も今のところは印象論の域を出ない。[2]

 連合の芳野友子会長は立憲が共産と共闘したことを激しく批判し、「連合の組合員の票が行き場を失った」と述べている。支持政党の足を散々引っ張っておいてよく言ったものだ。しかし、立憲が共産党と共闘せずに総選挙に臨んでいれば、連合の構成員を含め、多くの有権者が喜んで立憲の候補に投票し、立憲の候補者が大挙当選していただろうか?  それがありえない話であることは、誰にだってわかる。[3]

 今回の選挙の前までは、補欠選挙や地方の首長選挙などで共産党を含む野党共闘の成果で与党候補の敗北が続いていた。歴史にイフはないが、今回の総選挙で立憲の戦う相手が菅・自民党であったなら、共産と選挙共闘した立憲は文字通り躍進していたかもしれない。逆に、相手が河野・自民党であったなら、10月31日の開票結果以上に大敗していた可能性もある。また、コロナの感染状況が収まっていない中で選挙を迎えていれば、政権批判票が増えて自公過半数割れという事態さえあり得ただろう。その意味では、立憲と共産は賭(か)けに出て、それに敗れたということ。

 立憲の敗因として確実に言えるのは、〈今の立憲民主党は有権者にとって魅力に乏しい〉という冷徹な現実である。立憲にもっと魅力があれば、「立憲共産党」などとネガキャンを張られても、代表が辞任するような事態にはならなかったはずだ。そもそも論になるが、立憲にもう少し人気があれば、ここまで共産党と大々的な選挙共闘を行う必要もなかった。これこそが問題の核心であり、だからこそ、立憲にとって事態はより一層深刻なのである。

 立憲民主党に魅力がないことは、その支持率に如実に反映している。立憲があくまで政権交代を目指すと言うなら、自民党批判の受け皿として少なくとも野党の中では圧倒的なトップでなければならない。ところが、選挙後の11月1・2日に共同通信が実施した世論調査では、維新の支持率が10月上旬の5.0%から14.4%に急伸し、立憲の11.2%を抜いた。(自民は45.7%であった。)この傾向が今後も続けば、立憲にとって存亡の危機と言っても過言ではない。

 立憲が国民にアピールしない理由は、党及び支持組織の弱体化、日常的な運動量の不足、自由と言えば聞こえはよいが仲良しクラブ的で規律に欠ける体質など、いくつもの要素が複雑に絡み合っている。分けても政策が色あせていることは政党として致命的だ。以下では政策に焦点を絞り、「立憲に魅力がない理由」を指摘してみたい。立憲の前身政党で政策立案に関わっていた私が立憲の政策について批判がましいことを言うのは、決して褒められたことではないだろう。そのことは百も承知のうえで、立憲の政策に注文をつける。【次ページ】経済政策~夢も希望もない

(註)

[1] 今回の選挙は衆議院選挙である以上、建前上は「政権選択」選挙であった。自公は選挙戦術上、「立憲共産党」政権誕生の危機を煽り、選挙後の「閣外協力」に浮かれた共産党も政権選択選挙であることを前面に打ち出した。しかし、参議院で現在の野党勢力が過半数にまったく届かないという現実がある以上、支持率も低空飛行のまま、奇跡が起きて衆議院選に勝利しても、立憲中心の政権運営など絵に描いた餅だ。枝野は政権交代の可能性について「大谷選手の打率(=2割5分程度)」くらいだと述べていたが、それは精一杯の強がりに聞こえた。そして、国民は枝野以上に醒めていた。戦後3番目に低い55.93%という投票率は、有権者の多くが今回の選挙を政権選択選挙と認識していなかったことを示唆している。

[2] 例えば、「共産党との共闘によって増えた票よりも、それによって失われた票の方が多かった」という見方についても、数字による裏付けはない。読売新聞・日本テレビの出口調査は、共産党支持層の大半が立憲民主党の候補を支援したことを確認している。一方で、同出口調査では、立民支持層から共産候補への支援は限定的なものにとどまったと言う。立民と共産の協力に温度差、出口調査分析…無党派層は維新支持増える : 衆院選 : 選挙・世論調査 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

 また、産経新聞は「同じ野党でも、共産との連携から距離を置いた国民民主党や維新は議席数を伸ばした」ことから、最大の敗因が共産党との選挙協力にあったことは「一目瞭然」だと述べている。だが、維新は吉村大阪府知事というスターと橋下徹という事実上の応援団を擁し、勢いもあった。国民民主の衆議院議員にはもともと小選挙区で勝てる「選挙に強い」人が多い。しかも、産経は野党共闘に加わったれいわ新選組の獲得議席が3倍増となった事実を無視しており、いつもの牽強付会ぶりである。

[3] かつて、連合構成員の中で民主党に投票する人の比率は、日本全体で民主党に投票する有権者の比率と同じだと言われた。それは今も変わらないと思ってよかろう。

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